第12話 押しかけ弟子、王宮内の事情を聞かされる

「王都から出るまで顔出すなって言ったでしょうが!自分の立場わかってんすか!?」


 馬車から顔どころか上半身まで見えるように乗り出しているランルウド侯爵に詰め寄るクロフト。

 そのクロフトにつられるように、両脇を固めていた騎士たちも馬車に注意が向く。


「……今のうちに行け。あの人は王家のお膝元で無茶をやる貴族じゃない」


 馬車から視線を切らさずに、後ろの母子に声をかける。

 怯えていた母親だったが、自分に言われていると気がつくと、かすかに首を縦に振る。


「……あ、ありがと、う……ご、ござい、ます……ありがとう、ございます」


 母親はかすれた小さい声でお礼を言いながら、ゆっくりと子供を抱えて後ずさりしていく。

 これで一安心だ。

 馬車に乗っていたのがランルウド侯だったのは予定外だが、母子を野次馬にまぎれさせることはできた。

 あとは周りに集まっている彼らになんとかしてもらうしかない。


「そのためにきみがおるがやろう?なぁ、シュバルツの小倅もそう思うろう?」


 今までクロフトの怒声をのらりくらりといなしていたランルウド候が、悪戯が成功した悪ガキのような笑顔を浮かべ、こちらに視線を向ける。

 母子が隠れきるまで待ってたな、あの様子じゃ。


「そうですね。と謡われる守護騎士がいれば、ランルウド候に危害を加えられるものは皆無でしょう」


 ふうっと息を吐き、ゆっくりとした足取りで馬車へと足を進める。

 ランルウド候だけでなく、クロフトにも母子を隠したことはバレているだろう。

 だが、そんなことに触れられないような立ち居振る舞いをすればいいのだ。


「とはいえ、守護騎士クロフトの素行の悪さは有名ですからね。今すぐにでも持ち場を離れてしまうかもしれませんよ」


 唇の端を持ち上げ、笑みの形を作ると、言葉の矛先をクロフトに向ける。

 ランルウド候と俺ばかりが話してしまうと、騎士たちの注意が野次馬たちに向かってしまう。

 それでは、母子を逃がした意味がない。

 だからこそ、騎士たちの注意を俺に向け続けるため、クロフトを巻き込む必要があるのだ。


「ふっざけんなよ、てめぇ!ありゃあ……くっ!」


 クロフトに胸倉をつかみあげられるが、その先が続かない。

 当然だ。

 クロフトが持ち場を離れた件は、王の名のもとに他言禁止の命令が出ている。

 それも魔法的に厳重な縛りをかけたうえで。

 当事者であるクロフトには、ことさら厳重な魔法がかけられていることをクソ賢者から聞いておいてよかった。


「どうしたんだよ、守護騎士サマ?何もないなら、その手を放してくれないか」


「ちっ!」


 乱暴に放された襟元を直していると、ランルウド候から声をかけられる。


「ときに、シュバルツの小倅。今の王宮の状態が分かっちゅうか?」


「王宮の状態、ですか?いえ、第二王女殿下の輿入れが決まりそうだ、というところしか存じておりません」


「なるほど。王子連中の仲が悪いことと、普人至上主義者が増えてきちゅうことは?」


「いえ。父からも、賢者からも、伺っておりません」


 俺の答えを聞いたランルウド候は腕を組み、しばし思案するような顔になる。


「そうか。賢者様のところまで情報が伝わっちょらんのか、シュバルツの小倅に伝える必要がない思われたのか。……まあええ。聞け。わしが知っちゅう情報を話しちゃる」


 そうしてランルウド候から伝えられた内容は、思った以上に混迷を極めるものだった。

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賢者の押しかけ弟子とハーフエルフの王女様 カユウ @kayuu

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