【ショートショート】珍しい植物の盆栽
秋風ススキ
本文
今時、住宅街にある空き地で草野球なんてした自分たちのほうが悪いと、ぼくは反省していた。まだ謝罪もしていないうちからの、心中での反省。
「ごめんなさい」
「ああ。さっきのボールは君のだね」
門の所でボールを持って出迎えてくれたのは40歳くらいの男性であった。平日の夕方前なのに家にいるのかと、ぼくは失礼なことを考えてしまった。ちなみにぼくは小学5年生であった。
「はい。すみません」
「構わないよ。ほら。ボール」
「あ、ありがとうございます」
「1人で取りに来て勇敢だね」
ちょうどボールを手渡された時、
「あなた! 早く植え替えてあげて」
という女性の声が飛んできた。きつそうな声であった。
「あ、あの。もしかして、ぼくらのボールが盆栽の鉢植えを割ってしまったのでは」
「隠しても仕方ないから言うけど、実はそうなのだよ」
「ごめんなさい」
「良いから。君は早く行きなさい」
男性の声は少し怯えているようであった。
「あなた! 早く!」
庭のほうから女性が歩いて来た。男性と同じくらいの年齢と思われたが、美人であった。というか、欧米の人であるみたいであった。
「おまえがボールをぶつけたのね。修理を手伝いなさい」
「は、はい」
「いや。良いから」
「あなたは黙っていなさい」
3人で庭へ行く。縁側の前に広がった庭。棚があって盆栽が並び、花壇や植木鉢もあった。ぼくがそれまで見たこともない植物ばかりであった。
「この鉢ですね」
「ああ。こっちの鉢に植え変えよう」
植木鉢などは予備がいくつもあるようであった。男性は作業を開始した。ぼくはすることもなく、そばで見ていた。
「あなたの大好きなジュースを作ってくるわね」
と、女性が建物の中に消えた。妙に綺麗な声であり、可愛い口調であった。
「よし。できた」
ぼくは心底ホッとした。
「それにしても珍しい植物ばかりですね」
「ああ。これは子供をからかう冗談だと思って聞いて欲しいのだけど」
「はい」
「この植物たちはどれも、異世界の植物なのだよ」
「異世界」
「ぼくは10代の時に異世界に行ってね。こっちの世界に戻って来たのは20代の時。向こうでは冒険して、手柄も立てて。宝石や植物をこちらへ持ち帰ることができた。そして王女様が1人、ついて来てくれた」
「王女様」
「彼女はぼくのことが大好きでね。ぼくも彼女のことは大好きだけど。彼女は、できるだけいつも、わたしと一緒に過ごしたい」
「はあ」
「冒険も昔の夢。今は外に働きにも出られない」
【ショートショート】珍しい植物の盆栽 秋風ススキ @susuki-autumn
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