本作は主人公・果歩が会社を辞めて和菓子屋で働きはじめるところから始まるラブストーリーです。
退職のくだりは、果歩が(本人も自覚しているとおり)年齢の割にあまさがあることもあって、なかなか心にくるものがあります。でもそれは必ずしも後ろ向きな選択というわけではなく、自分が笑顔でいられる場所に向かうことでもあって。
逃げちゃダメだと人は言う。でも、自分のあまさを受け入れて、自分が甘いと感じるものと時間をかけて向き合っていくことは決して逃げではない。何より心がぽかぽかします。
母の来訪や栗拾いデート(?)の際の軽いドタバタもほっこりしましたし、果歩のちょっとずつの成長も見ていて好ましく思いました。
心に糖分が欲しい方は是非お試しあれ。
手抜きなしのイベントと、四季を彩る和菓子が織り成す恋愛ストーリーです。
会社を辞した主人公、果歩。
その果歩が、誘われるように入った和菓子屋の主人、悠一。
果歩は和菓子屋のバイトに就き、雇い主である悠一と同居が始まる展開。
拝読する側のボルテージは、その時点でマックスでしょう。
何かが起きる。起きないはずがない。
期待感は高まります。
しかし、少々のハプニングはありますが、
二人が持つ独特な感性によって、最初から世界が重なるようで重ならない、新たなジレジレ感。
普段、私は恋愛モノは拝読しません(失礼)。
出会えば速攻、交渉成立の図式しかない無作法者の私は、この作品を拝読して目から鱗でした。
恋愛は、結果が先に来るわけではないのだと。
恋愛から見える風景は、こんなにも鮮やかに人や物を取り込み、また、作者様が案内される視点の先には、読者が見逃している思いや景色に気付きを与えてくださるのだと。
単に男女が惹かれ合って結果が出て、ハイ、オシマイ!
ではないのだと。
私が持っていた、恋愛モノの印象を変えてくださった素敵な作者様と作品でした。
もちろん、果歩ちゃんと悠一さんの人柄、和菓子の美味しそうな事。
季節のイベントが持つ空気と色。
何よりも、作品に滲み出る作者様の思いは、恋愛モノに不慣れな私を物語の細部へと案内してくださいました。
季節を彩る和菓子の解説も、押し付けるような長文ではなく、適切な上に丁寧でいて分かりやすく、まるで和菓子のような逸品に感じ入りました。
生意気で失礼な物言いを重ねてしまいましたが、ご容赦いただけると幸いです。
最後になってしまいましたが、
深水映様。
素敵な作品を生み出してくださって、本当にありがとうございました。
また、お邪魔させていただきますね。
ちなみにですが、
私は、『甘い気持ちのわけを教えて~和菓子屋兎月堂同居物語~』を拝読し、本当に和菓子を買いに行きました。
等身大のヒロインが人生に疲れたときに、偶然見つけた和菓子屋さん。
それだけでも、癒されるのが日常に疲れている現代人なら共感してしまうと思います。
現実ならちょっとした息抜き程度の癒やしで終わってしまうけど、そうじゃないのがこの優しい物語の素敵なところ。
和菓子屋さんのイケメン店主と同居するなんて、物語の中でしか楽しめない。存分に、甘くて優しい同居生活を楽しませてくれます。
甘さにニヤニヤしたり、優しさにほっこりしたり、トラブルにハラハラしたり、でもやっぱり甘くて優しい気持ちにさせられます。
お茶と和菓子を用意して読んでみるのもいいかもしれませんね!