小説家たちの、と彼は言った。(15分)

お題:小説家たちの、と彼は言った。



 ーーこれは死体です。小説家たちの、と彼は言った。

 折り重なる死体を前に、彼は語る。

「物語を作ることも語ることも、罪となって久しいのです。虚構を愛でることは禁止されたのです。けれども現実だけでは生きていけない人もいる。彼らもそうです。だから彼らは物語ったのです。小説を書いたのです。そうして、死んでいったのです。」

 けほけほ、と。彼は話す合間に咳をした。

「もちろんご存知のように、物語を作る罪に、罰則規定はありません。罪ではあるが、罰はない。ですからもちろん彼らは、国に殺されたわけではありません」

 げほげほ、と。彼の咳は酷くなる。

「物語ることが罪になったのは、物語が危険なものになったから。ーー数年前からこの国では、虚構が毒を持ったのです」

 カハッ、と。彼は血を吐いてその場にうずくまった。

「物語はそれを作った者、語った者を蝕むようになってしまった。それでも、私たちはやめられなかった。どうせ、物語なしでは生きていけないのです。どちらでも同じことです」

 彼にはもう、立ち上がる力がないようだった。

「あなたも同じだ。近いうちに、僕たちと同じになる」

 それきり、彼は二度と口を開かなかった。

 ーーそうしてここに、死体が一つ増えた。

 彼の話を書き留めたノートを閉じ、僕はこの場を後にする。

 これはネタ帳。小説を書くためのノートは、これとはまた別にもう一冊、ちゃんとカバンの中に入っている。

 彼の予言通り、近いうちに僕もまた、ここに眠ることになるだろう。

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即興小説まとめ 木兎 みるく @wmilk

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