最終話 また、春が来る

礼子が殺害されて以降、秋本家は世間の目や悲しみから逃げるように、直ぐに住処を東京から遠く離れた地方へと動かし、後の子孫達に事件の話は語り継がれていった。


あれから、100年以上が経ち世間からも事件は忘れ去られた。


「お父さん、お母さん、行ってくるね!」


現、秋本家の一人娘の礼実は大学に進学の為に上京することになっていた。

見送りにきた両親に向かって大きく手を振る。


「礼実、知らない人に声をかけられても、ついて行ってはだめだぞ」

「そうよ!着いたら連絡よこすのよ〜」

両親は心配な声で礼実を新幹線の入口から手を振りながら言う。


礼実は、はいはいと適当に言い

いつまでも子供扱いして~と内心思いながら新幹線に乗り座席を探す。


「えーっと、私の席はここね」


座って新幹線が出発すると窓から過ぎていく景色を見ながら、ここまでの道のりを振り返る。


親に東京の大学を受験すると言った時は大反対された。


私の家は昔は華族で、先祖の女性が別の男性に略奪されかけて、恋人が助けようとしてくれたのだけど結局、略奪しようとした男に殺されちゃって、それ以降東京やその付近へは絶対に行かないのが暗黙のルールとなったのよね。


で・も!私はどうしても東京に行きたかった!!もちろん、親には反対されたけど、その事件から100年以上は経ったのよ!気にしすぎよ〜!


「銀座・浅草・横浜、どれも気になるスポットだけど、やっぱり東京駅は一押し!!なんだか、惹かれるのよね〜」


礼実は東京はどんなところだろう?と想像しながらタブレットで観光スポットを探していた。


それから数時間後…


東京駅~東京駅~


鳴り響くアナウンスを背景に礼実は、速足で改札を出て、東京駅の丸ノ内口に出る。


「昔からこういう古い建物大好き!」


独り言を言いながら、スマホで写真を撮った。桜の木もあり、運良く満開であった為うつりばえする。


夢中になってスマホのカメラボタンを押していると、春一番というくらいの突風が吹く。


「さむ~い!!きゃっ!」


被ってい帽子が自分が向いている方向とは逆に吹き飛ばされてしまった。


「あ~、私の帽子待って~」


帽子を追いかけると若い男性が拾ってくれた。


「はい、飛ばされた帽子ですよ」

「ありがとうございます」

男性は可愛い帽子だねと言いながら帽子をかぶせてくれた。

礼実はお礼を言う為に男性を見上げると言葉を失った。男性も同じなのか目を見開いて何も言わない。


何この懐かしい思い……胸が苦しい……この人知ってるかも……


2人はそのまま無言でお互いを見つめ合い続ける。


そんな2人の様子を見る男性がもう1人いた。


「あの2人を見ると不思議と心が…痛い……」


風が華やかに桜を舞い散らせるその時期は出会いの季節。


今度はどんな物語になるのでしょうか?


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風と華と桜 〜君しか愛せない〜 ぷるるん @lady-tsubaki

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