第22話 デビューしても専業になれるのはほんの一部。デビュー後の数年が勝負のはずだが……

デビューした後のことは以前も書きましたが、ちょっとくわしくご紹介してみようと思います。

正直、デビューするよりも専業としてやってゆく方が難しいと思うんです。専業としてやってゆける人はデビュー数年(ほとんど直後)で専業に移行でき、そうでない人はずっと専業になれないままという傾向があるように思います。後者の人が専業になるためにはデビュー後の数年で手を打った方がいいと思うのですが、デビューした賞の出版社の編集部とやりとりするだけの人が多いように思います。数年経つと、専業になれる人とそうでない人の差ができていて驚く。


なお、デビューというのは紙の本を出版することを指すのが一般的です。商業で電子書籍を出版することもデビューと呼ぶこともありますが、こちらは専業になるのはかなり難しいのでここでは触れません。


最初に救いのないことを申し上げておくと、専業作家になるのはかなり難しく、現在活躍してらっしゃる作家のほとんどは兼業作家だということです。ベストセラー作家ですら、他の仕事を続けていることが少なくありません。

常に複数の選択肢(出版社、編集部、書き下ろし、連載など)を持って使い分けてゆくことが重要だと思います。


 ・生き残りやすい賞でデビューする

 ・複数の出版社、編集部から本を出す

 ・連載を持つ


なお、私が書いているのはあくまでふつうの人向けであって、ごく一部の天才あるいは運の言い方には当てはまりません。



・デビュー方法でその後の運命は大きく変わる 生き残りやすい賞なら話は簡単

有名な大きな賞を取ると、単行本を出版してもらえ、その刷り部数も1万部以上になることが多いようです。賞によっては文庫の場合もありますが、有名レーベルであれば数万部刷ってくれることが多いようです。1冊700円とすると印税10%(ラノベの場合低いことも多々あります)で70円、1万部で70万円、3万部で210万円、5万部で350万円が収入となります。このペースで毎年数タイトル出せれば専業としてやってゆけます。


最近では受賞作であっても単行本で3千部、文庫本でも1万部以下ということも珍しくないようです。文庫本で5千部だと1冊700円印税10%として、35万円です。毎年4冊出しても100万円ちょっと……専業は無理でしょう。

出版不況で売れないことも一因ですが、リアル書店の数が減っているため主な書店に配本するための部数が'減っていることや、出版社のオンデマンド化が進み1冊からでも重版が容易にできるようになったことも理由のような気がします。つまり必要最低限リアル書店とネット書店には配本する分を刷れば、あとは販売状況に応じて簡単にすぐに増刷できるようなったのです。以前は1冊から増刷なんてできなかったので、一定部数を刷らねばならず、コストがかかりました。


古くからある賞だとそこから3作くらいは賞を主催している出版社から出版してくれることが多いようです。そうでない場合、1作ごとに売れ行きを確認しながらの刊行となります。そのため1作で終わりということもあります。


ここで以前お話しした生き残りやすい賞とそうでない賞の違いが出て来ます。


 1部 第25話 生き残りやすい賞とそうでない賞 予備知識編 受賞作品が店頭で平積みされる賞

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888104801

 1部 第27話 生き残りやすい賞 1 受賞作の初刷り部数の多い賞は生き残りやすい

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888112519

 1部 第30話 生き残りやすい賞 2 本を出し続けてくれる編集部

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888114854

 1部 第31話 生き残りやすい賞 3 PRの選択肢の多い出版社の賞

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888123164

 1部 第32話 生き残りやすい賞 実例 出版社の大小は関係ない

   https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888125302


幸運にも生き残りやすい賞でデビューしたら、後は編集者とよい関係を築いて書き続けることです。しかし生き残っても専業になれるとは限りません。本を出し続けられても部数が少なかったら食べてゆけないのです。



・デビューした賞以外の他社で本を出す

生き残りにくい賞でデビューした場合や、生き残れるけど収入が少ない場合、他社からの出版を考える必要があります。できれば単行本で出せると言うことなしです。

同じ長編でも1,500円の単行本を3千冊刷ってもらえると印税10%で45万円になります。一方、文庫本で700円で5千冊だと35万円で10万円少なくなります。年に4冊だと単行本だと180万円、文庫本だと140万円となります。しかも単行本の場合は文庫本になる可能性もあるのです。また、直木賞などの文学賞の多くは単行本を対象としており、文庫本は対象にならないという事情もあります。単行本はかなりお得なのですが、出版社の負担も大きいため年々出すのが難しくなってきているようです。


他社で出す方法は大きくふたつです。向こうから声をかけてもらえるのと、自分から売り込むことです。

多くの編集者は気になる賞の新人の作品を読み、可能性ありと思ったらコンタクトしてきます。授賞式に来たり(ラノベ以外の授賞式は他社の編集者も入れることがほとんどです)、ツイッターで声をかけてきたり、受賞した賞の編集者経由で問合せが来たりとコンタクト方法はいろいろです。

なぜか私はデビューから今日に至るまでいろんな編集者の方から声をかけていただくことが多いので、誰でもそうだと思っていましたが、どうやら少数派のようです。ほとんどの作家は他社の編集者から声を掛けられることはないようです。ということは自分から積極的に開拓してゆかないと新しい出版社との仕事はできないということです。営業方法については以前書きましたので割愛します。


他社で出す場合、デビューした賞の編集部が難色を示すことがあります。この傾向はラノベレーベルで顕著です。他社で出したら、自分のレーベルではもう出せないと思ってほしい的ことを言われたりするようです。昔はそういうプレッシャーをかけられるだけの部数をそのレーベルで売っていたのでそういう言い方も成立したのですが、最近は部数が減ってきてプレッシャーも効きにくくなってきて軟化しているようです。


いずれにしても専業になるためには、ひとつの出版社や編集部に頼っていては不安定過ぎます。編集部がなくなることもありますし、担当編集者がいなくなったて相性の悪い人が担当になることもあります。複数の出版社、編集部とつきあうことは専業としてやってゆく以上、必須といえます。


・連載を持つ

連載はいいです。なにしろ連載している間、定期的に収入があります。たとえば月5万円の収入でも年に直せば60万円で1タイトル刊行する印税よりも多くなります。しかも、連載から単行本化、その後文庫化という3段階で印税が入るという夢のホップステップジャンプも可能性が出て来ます。

おそらくどんな形でも小説の連載であれば5万円ということはなく、ネットでも月に10万円は超えるでしょう。紙の媒体だと数十万円なるでしょう。なお、フリーライターとして記事をネットで連載する場合、せいぜい1本1万円から3万円がよいところで安いと数千円、数百円になることもあるようです。

私の場合は、デビュー時点で連載マンガ原作(『オーブンレンジは振り向かない』)と小説の連載(工藤伸治のセキュリティ事件簿)が決まっていましたでラッキーでした。加えて時間はかかりましたが、紙の本にまとまりました。さすがに単行本化から文庫本化は無理でした。マンガは単行本化で止まり、小説は単行本を通り越してすぐに文庫化でした。

小説ではないものをいくつかのネット媒体に不定期連載みたいな感じで寄稿しています。フリーライターっぽい仕事ですね。それ単体では1本1万円から数間円のお小遣い程度ですが、そこで集めた情報を小説の元ネタにしたり、解説書を書いたりしています。情報収集&ストック作りを兼ねた原稿書きと考えています。


あくまで自分の経験と作家友達の経験を元にしているので、必ずしも業界の実態を反映しているとは限りませんのでご注意ください。

ご質問などありましたら、コメントいただければお答えします。

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