第21話 作家と編集者には相互の「理解」と「信頼」が必要 作家の裏話がおもしろい理由

最近、@fkt11さんの『売れてない作家が4冊目の本を出すまで』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054893207324)を読みました。そのまんまのドキュメントなんですが、おもしろいです。ハラハラ、ドキドキの連続でエンタメになっています。ぐいぐい読者を引っ張る文章力から地力のある方というのがわかります。

おそらく4冊目の本がもうすぐ(3月頃?)発売になるので、それに合わせての連載開始だと思います。ペンネームや小説の内容を伏せているのも書誌情報が公開されたタイミングで公開するつもりなのでしょう。心憎いまでの演出です。……と思ってるんですが、間違っていたらごめんなさい。


このお話に限らず、裏話的なものはおもしろいし、注目を浴びやすいです。特に失敗談はハラハラ、ドキドキしますからよりおもしろくなります。カクヨムでもそういうものはいくつもありました。このエッセイもそのひとつと言えます(失敗談か成功談かは受け取り方次第ですが)。

こういうお話を読む時に、いつも気になることがあります。お話をおもしろくするためには、「理解できない相手」や「予想できない状態」であった方が緊迫感が増していいわけですが、その一方でリアルではそれはまずいんじゃないかと思ってしまいます。なぜなら、作家と編集者はパートナーであり、相互の「理解」と「信頼」が必要だからです。いらないという人もいるかもしれませんが、ふつうはあった方がいいですよね。でも、編集者の事情がわかれば「理解できない相手」でも「予想できない状態」でもなくあってしまって、想定可能な複数のシナリオのいずれかになるのでおもしろみは減ります。もしかすると、わかっていてもあえて隠しているのかも知れませんけど。作家側からの視点で書くとどうしても編集者にとってネガティブな面が出がちになってしまいます。多くの作家にとって担当編集者は1人から数人、これに対して編集者は数十人の作家を受け持っています。ひとつの小説にかけられる時間や労力はどうしても作家の方が多くなります。

『売れてない作家が4冊目の本を出すまで』はそのへんをうまく処理していて、編集者へのネガティブな面は感じられません。この点もすごくうまいと思います。


以前書きましたが、ひとりの編集者は20人以上、時には50人の作家を担当しています。相互の「理解」と「信頼」がある相手とそうでない相手とでは進捗の速度や成果に違いが出るでしょう。こう書くと編集者と密に相談した方がいいと思う方もいるかもしれませんが、それは逆だと私は考えています。私自身も編集者から誘われない限り、飲食をともにすることもありませんし(打合せで珈琲飲むくらい)、メールや通話も頻度少ないです。だって20人以上担当してるんですから、ひとりひとりといちいち会っていたらいくら時間があっても足りません。どうせ時間を使うなら上位カーストの売れっ子の人のために時間を使いたいと思うでしょう。


単純に編集者がどのように仕事を進め、いつどこでなにが問題となりやすいのかを教えてもらい、相互に楽になるような仕事の進め方を考えるだけです。同時に、こちらの状況も細かく連絡しています。私は複数の出版社の編集者と同時並行で仕事を進めていますので、他社の状況(具体的な内容は伏せ、主に業務量やジャンル)や他の仕事(私の場合は講演や書評)、最近関心を持っていることなどを送ります。そうすると、ちゃんとこちらのスケジュールを踏まえた上で、編集者の方も考えてくださるので助かります。


編集者の事情をあまり考えずにアプローチする人も多いので書いてみました。編集者にプロットを送って返事が来ないと、次のプロットを送り、それでも返事が来ないとさらに次のプロットを送っていた知人がいました(デビュー済)。

「もし、担当さんが誠実な人だったら、全てのプロットに目を通してから返事するよね。ひとつのプロットを評価してもらうのに2週間待ったとすると、5つプロットを送ったら10週間待つことになる。逆に誠実でない人だったら、何本も送られてきたら面倒になって読まないと思うなあ」

と言ったらびっくりしていました。


私も売れない作家なのでえらそうなことを言える立場じゃないのですが……

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