ブラックホールウィルス・ホンコンA型

寝る犬

ブラックホールウィルス・ホンコンA型

 ブラックホールにかかった。


 今年のブラックホールは、熱はそうでもないけどマイクロブラックホールがひどいと聞いていたので、うがい手洗いはマメにしてたんだけど無駄だったようだ。


 会社に連絡して一週間の休みを申請する。

 課長の背後で悲鳴が上がったような気がしたが、気にしないことにした。


「ゴホッ! ゴホッ!」


 マイクロブラックホールが出はじめた。

 今日会う約束をしていた、年下の彼女に伝染うつしたら大変なので、マスクをつける。


 マイクロブラックホールは、ベッケンシュタイン・ホーキング輻射でウィルスを光速で撒き散らすのだ。

 さらに、ホーキング輻射で量子ゆらぎから発生したエネルギーは、俺の熱を上げる。


 おでこを押さえながらゴホゴホと彼女のもとへ向かうと、高校の制服を着たままの彼女は「うっ」と唸って身体を引いた。


「ちょっと、まさかブラックホールとか言わないよね?」


「……うん、ブラックホールだった」


「マジで?! ウチんとこもブラックホールで学級閉鎖なんだ。せっかくの休みに寝込みたくないから、シュバルツシルト半径以内に近づかないでくれる?!」


「そんなツレないこと言うなよ」


「ムリ! マジムリだから。じゃ、あたし帰るね! ばいばい!」


 彼女は足早に改札へと向かう。

 寒空の中、心のよりどころだった彼女にあしらわれた俺は、一気に熱が上がったような気がした。


「うゴホッ! うぇゴホッ!!」


 マイクロブラックホールがひどくなってきた。

 光電離プラズマが輝き始める。


「うぉっゴッホォォォ!!!!!」


 超特大のマイクロブラックホールが出る。

 このとき、マイクロブラックホールはナノスケールを超え、ついに本物のブラックホールになった。

 蒸発速度を、周囲の物質がブラックホールに落ち込む速度が超える。


 そして、俺の作ったブラックホールに、地球そのものが一瞬で飲み込まれた。


――終

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