最終話…年賀状がハッピーにする
1月15日の新聞の朝刊がポストに入ったままであった。
いつも一番先に朝刊を手にするはずの夫はもう家を出て行って、彼女はいまだにそのことに気付いていない。
ただ彼女は今日の新聞にお年玉年賀ハガキの当選番号の発表があることを楽しみにしていた。
たった数十枚の年賀状しかもらっていないのに、である。
「え~と、今年は下一桁は2と6と7があったらハズレなのね」
一番右の数字が2、6、7だったらすぐはぶいて残りを調べていく。
とうとう最後の3枚。そして2枚…、
「お願い、恵美ちゃんと、いとこの春江おばさん……」
「あ~あ、使えないな~恵美ちゃん。
おばさんとも今年会うのやめよっと」
二人ともいい迷惑である。
「そうそう、もう一枚あったわ。彼からの年賀状がパソコン横に置きっぱなしじゃない?!」
新聞を片手に自室に戻り、パソコンの横にいつでも見られるように置いておいた元彼からの年賀状の番号を見た。
『79』
「やった!下二桁でお年玉切ってシートだわ!ラッキー♪」
やっぱり彼とは運命で良い事があるのよ。と鼻息荒く妄想しながら早速、郵便局に行った。書き損じのハガキも忘れていない。
可愛い干支の絵のお年玉切手シート。
使うキッカケが難しいものである。
彼女が家に帰ってきて、ポストの中を見ると、中には一枚の年賀状が入っていた。13日の消印である。
「誰よ?まるで余りの年賀状みたいに今頃送ってきたの?」
よく見慣れた筆跡であった。夫の竜彦からである。
「12日はホテルに行く二人を目撃しました。
私は、やはりこの家を出て行くことに決めました。
離婚届は私の部屋の机の上にあります。
あとは弁護士を通じて連絡をします」
たった4行の走り書き。
すぐ彼女は、彼の部屋のドアを開けて
「あ!」と声をあげた。
備え付けの家具以外ガラ~ンとしているのだ。
机の上には夫、竜彦の名前とハンコが押された離婚届が無造作においてある。
やられた、と思ったと同時にようやく別れるキッカケができたと肩の荷がおりたような嬉しさを感じていた。
そう、嬉しさである。
元彼がいる余裕……。
彼女はすぐに心を割り切り、離婚届のサインとハンコを押した。
できる限りはやく決着をつけたいからだ。
「え~と、封筒はここにあるから、あとは切手、切手と……」
どこ探しても見つからない。
「あ!そうだ!お年玉切手シート!」
こんなキッカケでなければまず使わないだろう。
彼女にとってさらに縁起のよい切手となったのである。
夫から遅く届いた年賀状に離婚届の返信先住所が書いてある。
「役所かこれは?」
やがてふと、年賀状の番号をみてみると、
「ん?もしかして・・・」
新聞の当選番号の欄を見直すと、
なんと、
『1等』が当選していたのである!
「いや~ん、これも運命ね!」
いったい、どんな運命であろうか?
余りもの、残りものには福があるとよく言われているが、この福を元彼との
「にこにこ国内旅行」の賞品にして新しい幸せを踏み出す彼女。
『遅く届いた年賀状』
そう、
それは人生を豊かにしてくれるものなのである。
おわり
短編小説【遅く届く年賀状】 ボルさん @borusun
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