第7話…夫の策略

『負ける戦はしない』


夫、竜彦の信条であった。


自分も浮気していて後ろめたさが多少なりともあったのだが、かみさんもしているのを目撃した途端、「よし!勝ったな」とつぶやいていた。


普通はショックを受けるのであろう。


竜彦は自由になるキッカケを得て、初詣でお願いしたことがもう叶うことの喜びを噛み締めていた。


すぐにでも離婚と言う最終戦争に持ち込もうと意気込み、翌朝には荷物が全てまとまっていた。こういう時のためにある程度まとめていたのだが、まさか口火を切る行為が相手から起こるとは……。


「お前がいけないんだからな~」と嬉しそうに彼女の部屋の前を通って玄関に向かう竜彦。


車に自分の全ての荷物を積み込み、そーっと家をあとにした。


昨晩泊まらずに、真夜中に帰ってきた彼女はまだ寝ている。


家庭内別居が続いていたので、夫がいなくなっていることにさえ気付かないであろう。


翌日、1月14日。


浮気相手である彼女の元彼の家に一通の年賀状が届いた。


「この時期、火遊びは危険です。見ている人は見ていますよ……」


宛名も裏面も全て印刷されて手書きの部分がない。


内容が不可解で、送り主が印字されていない。


消印は彼女が住んでいるあたりの地域からだとわかる。元彼は少なからず狼狽していた。


「年賀状にも迷惑メールと言うのがあるのよ」と彼女はメールで元彼をなだめながら、まさか?と疑い始めていた。


そう、年始に余っていたお年玉年賀ハガキは、着実にかつ効果的に使われているのである。


翌15日。


何も知らない彼女へ、遅く届く年賀状があった……。


つづく

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