第9話 エピローグ


「ああっ、英梨々なら絶対にまた描けるようになって、cherry blessing の時よりも凄い絵が描けるようになる。」

「だから、俺もその時までには柏木エリに釣り合うようなクリエイターになって見せる」

「そして、その時には......」




冬が終わり、春を感じつつも、まだまだ寒いある日、俺は不死川本社に来ていた。

原作<<異次元>>とは違いギリギリではあったが、不死川大に合格。

まあその裏には、加藤からの壮絶な指導<<しごき>>があった訳だけど、思い出したくもない為、割愛。

その後、大学で充実した4年間のオタクライフを送った。(ここは作者の体力の都合で割愛)

俺の半生を割愛で振り返るうちに、今日のお目当の人物が来た。

「町田さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。」

「そんなにかしこまらなくても良いいのにって思ったけど、倫也君ももう社会人なのよねー。時間の流れは速いもんだ」

「うん、じゃあついて来てくれるかな」

そう言った町田さんに促され、社内をついて行く。

そこで彼女を実に4年ぶりに見ることになった。

だが、それは一瞬の出来事で、声が出なかった。ずっと会いたかったはずなのに、今なら彼女に顔を合わせられると思っていたのに。そんな俺に一瞥をくれると彼女は行ってしまった。


◯インが来てるな。加藤......

よし、久しぶりに電話するか。

「もしもし、加藤」

「もしもし、安芸くん。今日この後時間ある?あるならご飯行かない?」

「あー、うん了解。場所は」

「今から店の情報送るから、それを見て来て。」


「それで、最近どう?安芸くん」

「いや、どうって、特に何もなかったな。だいたいこの前まで一緒にサークル活動してたのに、変わったことなんて特にないな。」

「加藤こそどうなんだよ。」

「それがさあ聞いてよ、安芸くん。」

「お、おう」

「私、新人なのに同人やってたなら大丈夫だろ、とか言って普通に仕事振って来るしさぁ」

「いや、実際のところ加藤がそのあたりのことは、一番出来てたんだから何も問題ない気が......」

「仕事でするかどうかだとまた違うんだよ。」

「たしかに」

「何もなかったとか言ってたけど、今日は不死川に行ったんだよね?」

「ああ、一応町田さんって人と話しては来た。」

「えっと、霞ヶ丘の編集の人だったよね、確か」

「うん」

「会ってみたいなぁ」

「今度飲みに行かないか誘われたし、その時にでもでよければ会えると思うぞ」



「なんだか懐かしいね、こうやって二人でこの電車乗るの」

「まあな」

「そういえば、英梨々とはどうなったの?」

「なんでそんな脈絡のないことを......」

「それは、安芸くんが何も言ってくれなかったから」

「.......今日、不死川に行ったって話しただろ、その時に英梨々とすれ違ったんだ。」

「でも、声をかけられなかったし、英梨々も、もう俺のことなんて興味もなさそうでさ」

「ホントに、ホントにそう思ってるの?」

「仕方ないか、これが最後だから」

そう言うと、加藤は電話をかけた。相手は英梨々なんだろうか。

「ねえ、英梨々。私が今誰と居ると思う?」

「そう、倫也くん。取られたくないなら、諦めてないなら、◯◯駅に来てね」

「じゃあ」

加藤はそう言うと電話を切った。

「英梨々は絶対来るよ。だから、そこでどういう結末でもケジメを付けなよ。」

「まあ、どうしようもなかったら、その時は私がまたメインヒロインになるから。」

そう言うと、加藤は電車から降りて行ってしまった。


俺が英梨々にかけられる言葉なんてあるんだろうか、もしかしたら、俺にそんな言葉なんてないのかもしれない。でも、かけるべき言葉ならある。

共にゲームを作ったサークルの仲間に、成長する為に世界に飛び出した幼馴染に、そして大好きだった女の子に。

もしかしたら、言ってはいけないことなのかもしれない。でも、加藤がチャンスを作ってくれたから、だから俺は伝えなきゃならない。


家の最寄り駅に着いた俺は、約束の場所で待つ。

そうしていると、いかにも走り慣れていないような足音が聞こえる。

そうして、英梨々との実に4年ぶりの再会を果たす。

すっかり大人になった英梨々は、まだ本来の幼さを感じる顔立ちではあったけれど、しっかり大人で、綺麗だった。

髪型もあの印象的だったツインテールではなく、ロング。その金色の髪が月明かりを浴びていて、ただただ、これ以外には言葉が見つからないほど綺麗で、でもちょっとだけ寂しくてつい言葉が出てしまう。

「ツインテールはもうやめちゃったのか」

「急いで来てたから......」

「えっと、今の髪型も充分綺麗だから、大丈夫です。はい」

なんで、4年ぶりに話すことが髪のことなんだよっ

「今日はゴメン、無視しちゃって。私怖かったんだ、もう倫也が私のことなんて忘れてたらって」

「そんなことない、この4年間一瞬だって忘れてなかった。でも、俺も声が出なかったから、そのことについては俺だって悪いから。」

沈黙

「今日は私から先に言ってもいいかな?」

「ああ」

「私はもう、描けるようになったよ、倫也。そして昔よりもっともっとたくさんの人に、倫也に凄いと思ってもらえるようになったと思う。」

「うん」

「そして、私は今までの狭かった世界から踏み出して、いろんな世界を見て、感じることができた。それでさやっぱり変わらなかったんだ。倫也のことが好きなのは、だからさ、また昔みたいに一緒にいられないかなぁ」

「返事は、俺も言おうと思ってたことがあるから、その後でいいか?」

英梨々はうなづき俺の話を聞こうと、目を見る。

呼吸を整える。

「俺もこの4年間、色々な人や作品に出会って来た。でもさ柏木エリが一番だった。新しい絵を見るたびどんどん凄くなって行ってた。」

「そしてさ、俺もまだまだだけど、クリエイターになれた。」

「4年前には言えなくてゴメン。俺と付き合ってください。」



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もう負け犬ヒロインなんて言わせないんだからねっ 冴えないオタク @saenaiotakudesu

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