なんとも言えず温かく、どこか悲しく懐かしい切なさに溢れた短編です。
見かけはどうやら猫っぽい獣の姿をし、「ギニャア」と可愛げのない声で鳴き、そして中身はたいそう男前な物の怪。
夜更けに墓参りをする老婦人と寺で出会い、闇の中を目的の墓まで案内した彼。お礼に彼女から美味なる「ソウセイジ」をもらったことがその出会いだった。
いつしか彼女の家に居着き、静かに暮らす彼女の膝で一日を過ごす。
耳も遠く、普段の生活さえ心許ない彼女の家に、大晦日の夜、怪しい人間の影が——。
長い年月を生き、今は彼女に寄り添う物の怪の心の温かさ。弱いものにたかる人間の醜さが、むしろ怪物に見えてきます。
願わくば、ひとりきりで生きる全ての老人の側に寄り添っていてほしい。
そう願わずにはいられない、心優しい物の怪の物語です。