下
カメラのフラッシュが眼に突き刺さる。
(目障りすぎる、県知事の俺に失礼とは思わないのかよ)
リポーターの声が飛び交っている。
(うるせぇな、デケェ声で喋りたいなら他所に行け)
ここの空間は当分静まることはないのだろう、と笑みが零れる。
(でもまぁ、後々全員死ぬのだから、やらせておくのもいいかな)
「◯◯議員、史上最年少での県知事、おめでとうございます!!」
「他の候補者を全く引き寄せない、まさに圧勝でしたね!」
「父に次ぐ良い政権運営を期待しておりますぞ!」
「はい、皆様のご期待に応えられるよう誠心誠意職務を全うしていきたいと思っています。」
(なんでお前らに指図されなきゃいけねぇんだよ、お前らが勝手に俺の道を決めるな図々しいんだよ、クソが)
俺は弱冠24歳にして県知事に就任した。
父は県知事、母は裁判官という家庭に生まれてきた俺は、政治や行政、社会の情勢などの話を家でよく聞いていた。
…やれこの政治家は話がなっていないだの、やれここの国は良い政治をしているだの、その時は興味がなかったが、今も思う。
なんであんな聞く価値のない煩わしい蠅の羽音みたいなものを覚えていたんだろう。
__職業柄なのかは分からなかったが、両親はとにかく俺に厳しく、そして優しかった。
テストの点は95点以上じゃないと許されなかったし、五段階評定も全て4から5でないといけなかった。
食事の作法を少し間違えただけで怒られたし、寝る時間も決められていた。
そのことを言われるたびに思っていた。
…お前ら、何様だよ。
頼みもしてない事押し付けてできてなかったら叱るとか、頭おかしいんじゃねぇのか?
___俺が一番偉いんだよ。一々突っかかってくんなよゴミども。
でも、テストで100点を取ったら、毎回、他の親とは比べものにならないくらい褒めてくれた。評定が全部5だった時なんかは、ご褒美としてディズニーランドにつれていってくれたくらいだ。
でも内心まっっっっっったく嬉しく無い。ゴミに連れられてテーマパークに行くなんぞちっとも楽しくない。
買ってもらった人形やおもちゃなんて翌日に捨てる。
持ってるだけで不快でしかない。
父はうざったいほど話しかけてきて煩わしかったし、母はいつも笑ってて気色悪かった。
だから、このゴミ達をいつか棄てよう、という強い意志が芽生えた。
それを気力に頑張れた。
高校も県内一の進学校に入学し、大学も出た。
周りからは、
「お前なら県知事を継いでも大丈夫だな!」
「お父さんも安心してるんじゃない?」
なんて言われたりもしたが、
やっぱり、
そいつらは
クズ同然だと思っていた。
なぜ俺の将来を勝手に予測しやがる?なぜわざわざ俺の所まで来てゴミの話をしなくちゃならない?
本当に
本当に
目障りでしかない。
そして、
___立候補してみろ。
その父の言葉で、改めて俺は県知事になる決意をした。
演説も、どうやったら県民の心を欺けるか、どうやったら県民に媚を売ることができるか、どうやったらあいつより上手く演説できるか…
父からも様々なアドバイスをもらった。
こいつから聞く言葉なんて耳障りでしかない。
改めてこの家庭に生まれたことを呪った。
…………そして今、
県知事になって、
つくづく思う。
____俺は、この
…この
この
反吐がでるくらい、
大嫌いだ。
_______殺してやる。
1人残さず。
____________。
___そして、
______十三階段を登りながら俺は微笑む。
首にかけられたロープ、最期に食べたチョコクッキーのほろ苦い薫り、
目横を通り過ぎていったボタン、微かに聞こえる周りの声、
その全てを、
愉しみながら。
___もう思い残したことはない。
22.7秒後、俺は中空を舞った。
『速報です。先月発生した連続殺人事件の犯人であり、元県知事でもある〇〇容疑者に、今日未明、死刑が執行されました。繰り返します......』
嗚呼、
俺は、
幸せだ。
Borderline 健斗 @grazia-moderato
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