Borderline

健斗

 十三階段を登りながら俺は微笑む。



 首にかけられたロープ、最期に食べたチョコクッキーのほろ苦い薫り、



 目横を通り過ぎていったボタン、微かに聞こえる周りの声、



 その全てを、





 愉しみながら。





 ___もう思い残したことはない。






 22.7秒後、俺は中空を舞った。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 カメラのフラッシュが眼に突き刺さる。




 リポーターの声が飛び交っている。




 ここの空間は当分静まることはないのだろう、と笑みが零れる。





「◯◯議員、史上最年少での県知事、おめでとうございます!!」


「他の候補者を全く引き寄せない、まさに圧勝でしたね!」


「父に次ぐ良い政権運営を期待しておりますぞ!」





「はい、皆様のご期待に応えられるよう誠心誠意職務を全うしていきたいと思っています。」






 俺は弱冠24歳にして県知事に就任した。

 父は県知事、母は裁判官という家庭に生まれてきた俺は、政治や行政、社会の情勢などの話を家でよく聞いていた。



 …やれこの政治家は話がなっていないだの、やれここの国は良い政治をしているだの、その時こそは興味がなかったが、今思うとタメになる話だったなぁとつくづく思う。



 __職業柄なのかは分からなかったが、両親はとにかく俺に厳しく、そして優しかった。

 テストの点は95点以上じゃないと許されなかったし、五段階評定も全て4から5でないといけなかった。

 食事の作法を少し間違えただけで怒られたし、寝る時間も決められていた。



 でも、テストで100点を取ったら、毎回、他の親とは比べものにならないくらい褒めてくれた。評定が全部5だった時なんかは、ご褒美としてディズニーランドにつれていってくれたくらいだ。





 父は何事も熱心に教えてくれたし、母はいつも俺に優しくしてくれた。


 だから、頑張ることができた。




 高校も県内一の進学校に入学し、大学も出た。

 周りからは、



「お前なら県知事を継いでも大丈夫だな!」



「お父さんも安心してるんじゃない?」




 なんて言われたりもした。






 そして、






 ___立候補してみろ。






 その父の言葉で、改めて俺は県知事になる決意をした。

 演説も、どうやったら県民の心に響く演説ができるか、どうやったら説得性のある話ができるか…




 父からも様々なアドバイスをもらった。



 現県知事からもらえるアドバイスほどためになるものは無い。



 改めてこの家庭に生まれたことを嬉しく思っていた。









…………そして今、



県知事になって、



つくづく思う。











____俺は、このみんなが、








…このすべてが、








このかぞくが、








反吐がでるくらい、








だ。














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