五丁目三番地

病院のエレベーターに乗った。

友人の見舞いが終わり、病室から出てエレベーターに乗り込んだ時、閉まるドアの隙間から拳銃を持った男達がちらりと見えた気がしたが、見間違いだろうと信じる事にした。

目的の1階に付いたエレベーターからの合図でスマートフォンから顔を上げる。

扉が開くと床も順番を待つソファにも誰のものだか分からない赤黒い血液がどしゃ降りの雨が降ったあとのように撒き散らされていた。

こんな場面に直面した人間というのは意外にも叫ぶ気力などは起きず、頭が白くなってしまうもので、ここにどうやってどうしてここに自分が存在しているのか全くもって分からなくなった。

とにかく大変な事態であるという事だけは把握して、この場所から離れようと行動を起こそうとする。

だが思考とは反対に鼻腔に流れ込んでくる濃い血の匂いに胃が反射的に内容物を口に流し込む。

エレベーターの中で5分ほど嘔吐してから、目が覚めたような感覚に戻る。いつの間にか扉は閉まっていた。開くのボタンを押して一直線上に見える大きな出口に向かって歩き出す。1歩踏み出すと血液が足に向かって跳ねる。黒いストッキングに染みていく。

自動ドアを抜けるとパトカーの数と比例した警察官が病院を囲っていた。

すぐに毛布を持った女性の警察官が走り寄ってきて、流れるように担架に寝かされて救急車に乗せられる。

怪我はないですか、何か見ましたか、状況は、どんな人が、怪我人は、

救急車に乗せられるまで多くの記者が質問を投げてくる。


「戦慄の病棟 犯人は華奢な女性 死者20人」

明日の新聞の見出しを予想して少しだけ口角を上げたのは私だけど私じゃない。



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五丁目三番地 @dokoka

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