第19話 表紙の格好いい本
「表紙の格好いい本だあ」
「いいね。本なんか、表紙絵を見るだけで、開いて読むことはないからな」
「ちゃんと読め」
「おれなんか、表紙絵だけで満足しちゃって、表紙絵を見ることと読了って呼んでるんだぜ」
「それは読了じゃないよ」
「本の売上は表紙絵で決まる」
「うるさい」
「みんな、活字なんか読まないんだよ」
「うるさい。おれは読む」
「で、どれがいちばん格好いい表紙の本なんだ」
「それでは、発表します」
「おう」
「いちばん格好いい表紙の本は、舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日」」
「想定内だな」
「他にも、ヴォネガットの短編集「はい、チーズ」は切り絵の最高傑作」
「もう、作家のためじゃなく、イラストレイターのために本を買うようなものだよな」
「まったく、そういう本もある」
「かわいい女の子の表紙とかは何だ」
「上遠野浩平の「ブギーポップ・リターンズVSイマジネイター」」
「後で見てみるわ」
「上下巻とあるから、どっちもおすすめ」
「むさいおっさんの顔なんか見てられないからな」
「いや、それでは女性ファンが喜ばない。格好いい男の表紙絵もある」
「何の本だ。おれより格好いいのか」
「当然だあ」
「後で見てやる。誰だ」
「南方コレクションの南方熊楠。今、売ってるのではなく、むかしの熊楠の顔写真が五冊にわたって印刷してあった本。日本の美男子が十代から四十代までどう顔が変わるのか、わかる。どの年齢の熊楠も格好いい」
「おれは認めないぞ。熊楠より、おれのが格好いいと思うぜ」
「気のせいだ」
「気のせいか」
「ああ」
「他には」
「西洋人のおじさんの表紙絵なら、サルトルの「存在と無」の三冊。サルトルは格好いい」
「あとで、サルトルと勝負してやるわ」
「サルトルに勝てると思ってるのも気のせいだ」
「そんなことはない」
「今回はこれで終わり」
「ちっ」
「ちっっとかいうな」
外に出て遊べ 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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