大事なものは

ミーシャ

「?」


 結婚を機に、1LDKのマンションの一室を購入した。当初の希望は2LDK、収集家の嫁にも自分の部屋があった方がいいと考えたのだが、予算と環境の折り合いがつかなかった。


「悪いな、俺が部屋貰っちゃって」


「いいのいいの、私はリビングで充分」



 引っ越し当日。


 俺は借りていた賃貸を解約し、自分の少ない荷物を書斎に運び込む。嫁は嫁で、手慣れた様子で業者に指示を出し、広めのリビングに愛らしい家財を並べると、満足げに笑った。どれも嫁の趣味だ。



 作業が一通り終わったのを確認すると、嫁はいそいそと、エプロンのポケットから何かを取り出し、俺の部屋のドアに貼り付けた。そこには、『立入禁止』と書かれてある。


 怪訝な顔をした俺に、嫁は少し考え込んだ後、笑顔のまま、ぎゅうっと抱きついて言った。



「大事なものは常に、保存が肝心です」


 

 その日以来俺は、自室の外に貼られた『立入禁止』のプレートを見ていない。

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大事なものは ミーシャ @rus

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