第4話

 半年ぶりに見る実家の玄関を緊張しながらピンポンとインターホンを鳴らす。はーいと声の後ガチャっと玄関のドアが開いた。


「どちら様・・・って裕太か、なんで鳴らしたの?」


 玄関に出たのは母親だった。少しシワの目立ち始めた顔に優しそうな目、服装は赤いエプロン姿。料理でもしていたようだ。


「なんとなく・・・ただいま」


 少し照れくさい言葉を口にする。一人暮らしだと無言で家に入る。虚しさはもう慣れたけど、やっぱり言える相手がいるのはいいものだな。


「お帰り・・・と彼女さんも」


 俺の後ろを除き混んで後ろでたわいもない会話を聞いていた泉を見つける。


「水野泉です、よろしくお願いします」


 礼儀正しい挨拶をする泉はさっきまでの泉とは全くの別人に見えた。これが泉の仕事なんだと感心していると母親は俺の手を掴んで手繰り寄せる。そして俺だけに聞こえる声で呟く。


「あんたどうやってあんな子ゲットしたのよ」


「あ、はああ、いや・・・」


 なんと言っていいのかわからず言葉に詰まる。スマホでポチッとな、なんて素直に言えるわけもない。ま、元カノだからそこは適当に言えばいいか。別に知らない仲ではないし。泉はこちらを見ながら首を傾げている。


 言葉を選んでいざ口を開けようとするとさーさーと母親に誘導され家の中に入った。俺の答えは最初から聞く気は無かったらしい。


 誘導され家にある大広間に連れてこられた。大きなテーブルには料理がずらりと並んでいる。どこからどう見てもクリスマスや正月に親戚と集まったときに出されるぐらいの料理に唖然とする。


「おー帰ったか」


 反対側にはすでに酒に酔っている父親がいた。父親は酒に弱いくせに飲もうとする。テーブルに置かれているのは缶ビール一本のみ。酒のつまみとばかりに骨つき肉が二本ほどティッシュの上に置かれている。


「父さんもう出来上がっているし・・・」


「俺はまだまだいけるぞ〜」


 顔を真っ赤にして言われても説得力がない。しかも缶ビールを上に掲げたときにチャポンって音がしたから、缶の中にはビールが残っているようだ。


 父親は俺の横に並ぶ泉を目を細めて見た。泉はそんな父親から目を逸らした。


「裕太、その可愛らしいお嬢さんはだれひゃっ」


 本当に弱いな親父は・・・ま、酔っているなら都合がいいかもしれん。今日のことを忘れるだろうから。


「俺の彼女」


 それを聞くと父親ははっはっはっと馬鹿にするように笑った。


「お前の彼女がそんなに可愛いわけないだろ!あれか、レンタル彼女ってやつか、はっはっは」


 父親の言葉に二人してドキッとする。泉も目を大きく見開き動揺している。


「そんなわけないでしょ」


 台所から飲み物を持って来た母親が泉の顔を見ながらね〜?と聞く。泉はすかさずあるわけないじゃないですか〜、と言葉をつなげる。父親もそれもそっかとまた笑う。


「そもそも裕太にはレンタルする勇気すらなさそうだ」


 父親の発言にイラッと来たが抑える。酔った人間はすごく素直に気持ちを伝えてくる。それがいい時も悪い時もある。今のは悪い時だろう。もっと自分の息子の評価上げろよ、父親だろ!


「さー二人とも座って」


 母親の言葉に俺達は目の前のテーブルに近づいて座った。


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