第3話
新幹線の相席、ずっと静かなのは居心地が悪かったのでひとまず話題を振った。
「付き合ってた時もこの仕事続けてたのか?」
窓の外を眺める泉はこちらに顔を向けることなく答えた。
「付き合い中はちゃんと休業してたわよ・・・ほかの女に浮気した誰かさんと違って!」
泉は最後の言葉を強調したいのか声のトーンを上げた。
俺たちが別れるきっかけになったのは妹に街案内をしていたときだった。俺の妹である菜穂は高校三年生で俺らより早く休みが来ていた。夏休みの始まった次の日から一週間、俺の借りているアパートに泊まっていた。
そんなある日、菜穂に街を案内しているときだった。近くのモール内でたまたま泉に遭遇した。声をかけると泉は浮気者!と叫んで走って行ってしまった。その後も校内で見かけて誤解を解こうとするが話を聞いてくれなかった。そんな日々が続き俺達は別れる方向にいった。
泉は肘をついて外を眺め始めた。さっきから嫌な態度につい堪忍袋の尾が切れた俺は売り言葉買い言葉で返した。
「そんなん誰が信じるか!どうせ禿げたおっさんとホテルでも行ったんだろ!」
泉も俺の物言いにイラッとしたらしく、外から目を離し俺の方を見る。おでこのあたりに怒りマークが似合うような顔をしている。
「あんた馬鹿なの!レンタル彼女に触っちゃだけなんだよ、さっきのあんたの行為を訴えてもいいのよ!」
「はあっ!」
お互いガミガミ言っていると車内販売をしている女性に声をかけられた。ほかの客の迷惑になっていたようだ。俺がほかの客に軽く頭を下げるなか、泉はさっきと同じように肘をついて外を眺め始めた。
それ以降車内で話をすることはなかった。これ以上話すとお互い嫌になるのは目に見えていた。俺は話題を考えることをやめた。代わりにスマホにイヤホンジャックを差し込み音楽を聴くことにした。
駅に着いた時にはもう昼をとっくに過ぎていた。少しお腹が空いているが家ではご飯が出来ているらしい。車内でラインが着ていた。
改札を降りて駅の広場を出る。俺の後ろを歩く泉は物珍しそうに周りをキョロキョロしている。普段からこんな遠くの県まで来ることはまずないだろう。前回来たときと変わったところはところどころ見られた。全く知らない店、閉店して空っぽの店、今も元気に運営している店、駅周りは繁盛していた。俺達はタクシーを呼び目的地に向かった。泉はまだ不機嫌なのか外ばかり見ている。タクシーの運転手も気を使ってか話しかけてくることはなかった。
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