第6話
日が完全に沈んだ世界を街灯が明るく照らす。お祭りは小さい頃と何一つ変わっていなかった。子供よりカップルが多く見られる。子供にはまだ縁は関係ないからな。
俺の前を歩く泉はいろんな人から見られていたが本人は全く気にせず歩いている。
「うまくいったようね」
「うん、まぁ」
本当にうまくいったと思う。父親の冗談発言はドキッとしたがそれ以降は疑われる事なく時間が過ぎていった。全くの違和感がなかったのは泉のおかげだろう。出会った頃の話とかはちゃんと泉は覚えていて、その話が色々と救ってくれた。
泉は両手を上に伸ばして背伸びをした。
「はぁ〜、やっと終わりね!あと一晩であなたの顔を見なくてよくなるとせいせいするわ」
いちいち言葉にトゲを感じる。今日二度目のイラつきが襲って来た。知らない人ならこの気持ちは抑えられただろう。だが付き合っていた分、気持ちをオープンにしてしまう。
「あ〜そう〜ですね。俺もだよ、お前が早くいなくなれば楽なのにな〜」
「はぁ〜!」
泉は前を歩いていたがヒールをカタカタと鳴らしながら引き返して来た。
「誰のせいでこんなことになっていると思っているの!」
「はいはい!じゃあ今すぐ帰ればいいだろう!お説教なんて時間のむ・・・」
「きゃっ!」
俺の話中にこちらの歩いて来ていた泉が急にバランスを崩して硬いコンクリートの上に倒れた。
「あいたたたた・・・」
泉は自分の足に目をやった。そこには四角形に近い木のブロックが落ちていた。泉はバランスをとりながら立ち上がる。ヒールのかかとが折れたらしく左右の高さが違う。
「もう、嫌だ」
泉はヒールの取れた部分を拾った。立ち上がった泉の足にはさっき擦りむいた傷ができている。痛そうな傷口からは血が滲んでいた。人生のどん底に落ちたような顔をする泉の顔を俺は見ていられなかった。
「乗れ」
中腰になっておんぶする体制をとる。泉はなんでって顔で俺を見てくる。
「・・・歩けるから」
「そんな足で歩かせる奴がいるか!早く乗れ」
泉は一度口を開け、なにかを言おうとしたがすぐに口を閉じた。そのまま黙って俺の背中に乗った。細くて軽い体をひょっと持ち上げてお祭りを後にした。
祭り会場から少し離れた住宅地、外を歩く人の気配は全くない。道路を照らす街灯がときどき俺たちを照らす。後ろでは泉が黙っている。付き合っている時もこんなことしたことなかった。何回かデートにも行ったし、遠出もした。一緒にいるだけで楽しかった。
でももう戻ってこない。多分これが最後だろう。学校で会っても会話を交わすことはない。色々思い出すと胸がぎゅっと締め付けられた。
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