第二話「いざない」

暗殺者。誰にも見つかることなく目標を抹殺する影の存在。私は中学の時から暗殺者としての活動をしながら表向き平凡な女子学生として生活している。親は知らない。いや、もしかしたら地獄か天国で見ていて知っているかもしれない。もう両親ともこの世にはいないのだ。

 かつての記憶、真夜中の二時過ぎだったろうか。私は両親の眠っている寝室へと忍び込んだ。二人ともぐっすりと眠っていて私が忍び込んだことなど知る由もない。ベッドの脇まで歩み寄る。その手には拳銃、弾は予備も含め三発。その弾丸を打ち込む対象は―。

「ごめん、なさい」

 私は父の額に銃口を向ける。視界は涙で滲んで、手は震えていた。この引き金を引いたらもう後戻りはできない。壁には幼稚園に通っていた頃に母の日に送った両親と私を描いた絵が飾られていて、様々な記憶が頭に浮かぶ。

「う、うあああああああ!」

 絶叫。すべてを振り払うかのように、現実から目を背けるかのように、私は叫び、引き金を—、

「っっ!?」

 私は飛び跳ねるかのように目を覚ました。全身汗ぐっしょりで服の感触が気持ち悪い。またあの夢、私の永遠に消えない罪。

「着替えよ」

 私は着ていたジャージを脱ぎ捨て、タンスから替えのジャージを身に着ける。時間はまだ朝の四時半を回ったところ。もうひと眠りは、できそうにない。眠くないとか時間が微妙とかそういうのじゃなく気持ちの問題。私はぼーっと何も考えることなく朝を過ごした。


「つーむーぎ、起きろー私だぞー」

 それからしばらくは任務がない日々が続きました。特に何事もなくこうして茜に頬っぺたを弄られる毎日です。

 しかしそれもそう長く続くはずもなく、私の運命を変えた日がやってきてしまいました。

 初夏、だけどその日は一日中分厚い雲が空を覆っていました。

「今回の任務だ。特別任務になる、わかっているな」

 いつもの茶色の封筒ではなく今日は『極秘』と書かれた白い小さな封筒。封を切って中を確かめるとそこには、『女一人の抹殺』とだけ書かれていた。

「これだけ?」

「あぁ、だが気を付けることだな。あの女は魔女だ、惑わされないように口は絶対に聞くな、これは忠告だ」

 それだけ言って男は去ってしまいました。封筒の中にはもう一枚、対象の女のプロフィールが書かれた紙が一枚入っていました。女の名前は神農大和、実に和風な名前だ。男は魔女だと言っていたが今までにそんな人間は何人も見た。その分の死体も。いや、きっと一番の魔女は私なのだろう。

「今回もいつも通りでいいかな」

 いつも通り、何も考えず、冷酷に目標の眉間に弾丸を打ち込むだけ。それで全ては何事もなく終わるんだから、真相は闇の中。


「師匠、入り口は誰もいませんでした。当り前ですけどね」

「了解、楓はここで待機。十分経って戻ってこなかったら応援を呼んで」

 今にも崩れそうな洋館にその女は住み着いているらしい。この洋館は私が生まれるよりずっと前にお金持ちの富豪が建てて生活していた、と調べで分かっている。だが何か事件があり、買い手もつかないまま現在のようなボロ洋館となった。中学生や小学生の間では幽霊屋敷とのうわさもあるとか。

「任務、開始」

 だが私にはそんなことなど関係ない。迅速に任務を遂行するだけだ。門から一歩中へと踏み出したとき、空気が変わったのが分かった。ピリッとした電気を帯びたかのように感じさせる質感が肌に纏わりつく。警戒心をより一層強めつつ玄関の扉前まで歩みを進める。扉に耳を当て中に誰かいないかを確認する。物音はない、静寂に包まれている。できるだけ音をたてないように中へと入った。

 建物内は廃墟にしては綺麗で壁に所々傷が入っているくらいだ

「部屋は、沢山あるけど、やっぱりあの広間が怪しい」

 この空間の中でも二階にあるひと際目立った気配を感じる。

「開いた……?」

 階段を上がり広場の扉に近づいたとき、まるで私を待っていたかのように、誘うようにゆっくりと開いたのである。

「いい度胸じゃない」

 その誘いに乗り私は広間の中へと入った。

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