第3話帰ってきたピーター君
ピーター君が帰ってきた。
とにかく帰ってきた。
どこから?
「どこから?」と問うなかれ。とにかく、帰ってきたのだから。
人はいつか、どこからか帰ってくる。異世界との往復こそが、物語の基本構造なのだから。
「異世界というと、剣と魔法の世界?」
想像力が貧しいな。隣の家もまた、異世界なのだよ。
「あなたは、どこかへ行かないの?」
まだその時ではない。
「ピーター君は、ラスボス・青龍の王を倒したというのに、あなたはまだ何もしていないの?」
だァかァらァ、剣と魔法の世界じゃないのっっっ!!
「いや、でも」
「青龍の王、倒すのに、時間かかる、かかる」
ピーター君!
ピーター君は、『ウサギとカメ』スーパーに夕飯の材料を買いに行ってたんじゃなかったのっ!?
「ああ、そうさ。最初はそうだった」
最初は?
「スーパーの入口に白髪の老人がいて、こう言ったんだ。『汝、お買い得品を手に入れたければ、百均コーナーの出口から東に七歩き、地面を掘れ』と。言う通りにしたら、お買い得品の代わりに、聖剣エクスカリバーを手にして、剣と魔法の世界に無理やり転送させられ、この始末さ」
いいんだよ、ピーター君が無事なら。
「次はキミの番だ」
ピーター君は聖剣エクスカリバーを僕に差し出した。
えっ? もう青龍の王は倒したんだろ?
「アナザーステージにはまだ、赤龍の王がいる」
…………。
「もういいっ」と君は言って、聖剣エクスカリバーを手にし、消えた。
いや、ちょっと、待って。
僕だって、行く気はあったんだ。
ただちょっと、心の準備が整っていなかっただけ。
それだけなのに、この仕打ちはヒドくない?
「『仕打ち』って、キミはまだ何も汗をかいていないだろ? せいぜい、ハジをかいているぐらいで」とピーター君は言った。
僕は君の帰りを待とう。死ぬまで待とう。せめてもの償いだ。人は償いきれないものを償おうとして、生きている生き物だ。ピーター君が帰ってきた。ただそれだけでうれしかったのに、うれしいだけでは人は生きていけない。
「人は償いきれないものを償おうとして、生きている」と白髪の老人は言った。「その通りだ、若者よ」
「どうしてくれんだよ、じいさん。豚肉のタイムセール、終わっちまったよっっっ」とピーター君。
赤龍の肉は、どう?
君が、帰ってきた。
帰ってきた君は僕に、にっこり笑って言った。
「黄龍の王、あなたならきっと倒せる。もっと自信を持って。もっともっと、自信を」
3人のピーター君 花るんるん @hiroP
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます