変わった趣味

 二手に別れた後、ポストと笹美は二人で横引きの扉を開ける。

 そこにはバスタオルや洗面器などが置いてあり、見るからに浴室と思われる小部屋があった。

 もちろん洗面台もあるが故、蛇口をひねれば水も出るだろうか。

 ポストが試しに蛇口をひねってみる。するとどうしたことか、まるで墨のようなドロッとした黒い水が出てきた……が、その後は普通の水に段々と戻っていった。


「うぇぇ……なんか詰まってたのかなぁ……ん?」


 水で洗われて、排水口に流される直前で止まっている鍵のような形の物を見つけ、手にとってみる。

 それは三日月の形をしたヘッドがついたごく普通の鍵だった。どこかで使えるかもしれないと、ポストはその鍵を持って行くことにした。


「笹美さーん、鍵のような物を見つけましたよ!」

「ん、どうしました? ポストちゃん」


 笹美はどうやらバスタオルの方に目をやっていたらしく、中断してポストの方を向く。


「鍵……のようですね……」

「笹美さんは何を探していたんですか?」

「バスタオルの方に何か挟まっているように見えたんじゃが……気のせいのようじゃ」

「んー??」


 試しにポストがのぞいてみる。

 すると、紙切れを発見。紙切れには『よくし……の手……の、上に……が』と、所々文字抜けした言葉が刻まれている。


「メモしとこうかなぁ……抜けてる文字はなんだろう……」


 カリカリとメモ帳にメモをしながら、笹美に連れられすぐそばの浴室に向かう。

 五畳ほどのごく一般の浴室で、左側に浴槽、正面には鏡やシャワーがあり、右側にはシャンプーやリンスなどがある。

 シャンプーや鏡には何もないことを確認した笹美はシャワーを調べてみる。

 針金がシャワーの水口に刺さっているのを見つけ、それを手に取った。


「んー?」


 ポストが浴槽を見てみると、よくそうに溜まった水の底に、何か汚れたものが沈んでいるのが発見された。

 袖を捲って手を突っ込み取り出してみると、先ほどポストが取った、バスタオルの隙間に挟まっていた紙切れと同じサイズの紙切れだった。


「また紙切れだ。どれどれ……」


 その紙切れにはまたもや文字抜けしている言葉が書かれているようで、『……つ……前…………鍵……』と、水のお陰でぼやけてはいるもなんとか読むことはできる。


「……? これ……」


 ポストは何かに気がついたのか、先ほど手に入れた紙切れを取り出し、重ね合わせてみる。


「あーやっぱりいい!!」


『浴室の手前の、上に鍵が』と書かれた文字が完成する。

 一人で喜んでいるポストと、何故かみかんを食べながらあちこち探索している笹美。

 浴室の手前に何かがあるのかと、ポストは浴室の手前を隈なく探してみる。

 笹美もそれに気がつき、慌てて捜索すること五分、壁の隙間に太陽のヘッドがついた鍵が挟まっているのを見つけた。


「あ、あった……探すの苦労したぁ……」


 ストンと座り込んだポストに、「ほれ」と笹美はみかんを差し出して来る。


「お、おばあちゃん……今みかん食ってる場合じゃないでしょ……」


 ***


 一方その頃、柊花と菫の方はと言うと。


「おぉ……ここがキッチン……!!」


 キッチンに行って、テンションが上がっていたのであった。

 料理をする菫にとって、ここのキッチンは夢のような場所。こういうところで料理できたらなぁ……なんて思いながら、「料理できますかね……!!」とキラキラ目を輝かせながら柊花に尋ねた。


「私は何か燃やしたい……!!」


 物騒なことを呟く柊花に対して「燃やす……!! 何か作りたい!!」とウキウキしながら返答する菫。

 だめだこいつらなんとかしないと、この先危険な予感がする。


「ですね! 何かいい材料はないでしょうか!!」

「調味料がいっぱいデスよ……!! 柊花ちゃん、なんて読むんデスか? これ」

「それは硫酸ですね! 人にかけると悶え苦しみますよ!!」

「なんて危ないもん置いてるんデスかここの屋敷は!?」


 冷蔵庫に向かいながら柊花は得意げに呟く。

 その時、目に見えたものに柊花は真っ先に飛んでいき、ガッと掴んで「ハッ!?」と言いながら持ち上げる。

 手に持っているのは、スプレー缶。しかも火があったら燃やせるタイプの。

 辺りを素早く見渡し、「こっこれは!! なんともめちゃくちゃ燃えやすそうなものが置いてあるではありませんか!!」と声を荒げながら言う。


「スプレー缶!? すげぇ!! ポケ◯ンでいう「かえんほうしゃ」ができマスよ「かえんほうしゃ」!!! ほら、ボーッて!!!!」


 目をキラキラさせながら菫はテンション高めに声をあげる。


「いやぁこれは絶対楽しいはずですっ! 早く放火しましょう!! 絶対楽しいはずですよ!!」


 興奮して取り乱している柊花を見て、菫はウキウキしながら「早く燃やせ」と言わんばかりの視線で柊花を見ていた。


「いやぁこれはこれは仕方がない……仕方ないなぁ……ふふ……目の前に燃やしてくださいと言っているものを見過ごすわけにはいかないんだよなぁ!!」

「そうデス!! 目の前あるもの全てを燃やせますよ!!!」

「ですね!! これ全部燃やしましょう!!」


 実は子供の時からキッチンに立たせてもらえなかった柊花。

 その理由は『目にあるものなんでも燃やしちゃうから』。

 だから出された料理とかも燃やしちゃ謎の趣味(?)があるが故に、今になってもキッチンに立たせてもらえないんだとか。


「レッツバーニング!!」


 手に持っていたライターでゴォッと盛大にキッチンをあちこち燃やした柊花。

 その燃やした部分の一つから、燃え盛る炎の中からかっこよく姿を現した一つの扉。


「えっ扉……?」


 ここで正気を取り戻した柊花が扉をまじまじと見てみる。


「扉だ!!! お手柄デスよ柊花ちゃん!!!!」


 ぴょんぴょんと飛んで喜んでいる菫に「そ、そうですねっ! 私たち勝ちましたねっ!!」などと言う意味のわからない発言をした柊花。

 この扉に隠されたとある恐ろしいことに、この後に合流し再び四人になった彼女たちは、まだ知る由もなかったのでした……。


 ※良い子は壁を燃やすなどの行為は絶対に真似しないようにしましょう。

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イグラテガ─シナリオの無いTRPG─ ただの柑橘類 @Parsleywako

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