二手に別れて

「お……おおぉぉ落ち着け……落ち着け菫……落ち着け……」


 パニックになるのもおかしくはない。

 面白半分で来たこの屋敷の噂が本当ならば、少なくともアーナもこの声を聞いたのではないか、という思考にまでたどり着く。


「落ち着いて、菫」


「……どうしよう……」


「大丈夫ですか?」


 パニックに陥っている菫とは裏腹に、ほかの三人は何故か冷静さを保って……いるように見える。


 一番落ち着いているのはポストだろう。

 意志に反して身体が動かない、というのは他となんら変わらないが、それでも菫を落ち着かせようと必死に、かつ冷静にしていた。


「はわわぁ大丈夫デス……と、とりあえず探索しません……? ずっとここにいてもしょうがないデスし……」


 玄関から察するに、どうやら土足で入ってもいいところな様子であった。

 正面には階段、左右には長く続く廊下が、壁に立てかけられた薄暗い街灯があたりを照らしている。


「……ちなみに、玄関はたぶん開かないよなあ……。仕方ない。左右続いてるけど、どうするー?」


「……どうしましょうか」


「……お??」


 ふと、菫が何かを見つけ、とある所へと駆け寄る。


「………これ、地図じゃないデスか?」


 菫が見つけたそれは、今彼女達がいる一階の地図であった。

 壁に丁寧に貼り付けられており、シワ一つ無い。

 本当にここは廃墟のお屋敷なのかと疑えるくらい、紙質が真新しいものであった。


「んぇ……?? あ、確かにありますね。」


「あー……複雑そう……」


「ん~? おぉ! いろいろありますね!!」


 あとから来たメンバーも次々に声を上げる。



「ふむ……メモしとこうかぁ……」


「……一旦二手に分けて探索しませんコト? 四人でいても探しにくいデスし……」


「そうですね。二手の方が探索しやすいですし……!」


「どう分けます??」


「どうしましょうか……」


「うーん……じゃあポストさんと笹美さん、柊花ちゃんと私でいきましょうか?」


「そうですね。そうしましょう」


「わかりました」


「ふむ……メモしとこうかなぁ……」


 ポストがメモ帳を取り出し地図を綺麗にメモをする。

「じゃあ菫も!」と同様にメモをしている。


「そうだ、これもっていき! ポストちゃんにもね!!」


 ふと笹美が、三人に何かを渡す。


 みかんだ。

 笹美は常備こうしてみかんを持ち合わせている。

 受け取っておいた方が、荷物が減って少し楽であろう。


「ほわっ……ありがとうございマス!!」


「ありがとうございます……!!」


 それぞれカバンの中に閉まっているうちに、「僕らはこの……浴室にいこうか」と、ついさっきメモした地図の左廊下側を指さした。


 笹美がそれに同意したあと、「よしっ……!! 柊花ちゃん、ここのキッチンに行きましょう!!」と地図を指さして言う。


「キッチン……!! はい、行きましょ!!」


「いいデスか、何かあったら端末で連絡し合いましょう。合流する時は合流して、危険な時は必ず逃げましょう……いいデスね?」


「そうだね」


「そうですね……! お互い頑張りましょう!!」


「んじゃ!!」


「はーい!!」


「んむ」


「はい!」


 ……さて、何故かテンションが上がってもはや別の人格にも思える柊花。


 その理由が分かるのは、もう少し後のお話。

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