謎のお屋敷
とある夏。
ポスト『(スタンプが送信されました。)』
ポスト『どうも♪競技の練習終わってから暇だったんでねー』
菫『柊花ちゃん!!! ✨✨✨』
ポスト『おつかれだね♪』
菫『みんな集まりましたね!!』
ポスト『ふふ、集まったねー♪』
笹美『お久しぶりです🍊』
とあるLINEグループ。
この子達は、SNS上で住んでいるところが近いというひょんなことから知り合い意気投合した方々。
そのメンバーは、アスリートだったり、歌手だったり、メイドだったり、おばあちゃんだったり。
年齢層も幅広く、高校生も居ればご高齢だっている。
そんな『ちょっと変わった者達』の中で作られたLINEグループは、朝一○時にも関わらず今日も賑わいを見せている。
菫『そういえば、最近行方不明になりましたよね、この方……(画像を送信しました)』
その画像は、最近……と言っても、七月の始めから行方不明になった有名なブロガー「アーナ」という人物の、ひとつのブログ記録。
「今から行ってきます!! わくわくー!!」と、ありふれた感情がもはや表に全開で出しているブログの文章と共に乗せられた画像には、可愛らしい女性と、その後ろに雰囲気が真逆すぎて画像越しでも伝わってくるお屋敷が佇んでいる。
ここ一ヶ月、家にも帰っておらず、警察も操作を続けているものの未だに手がかりは掴めない様子ということを彼女達はよく知っていた。
ポスト『写真……屋敷かな? 写ってるの……』
柊花『そういえばこのお屋敷見たことありませんね……』
菫『私も見たことがないのです!! 誰か知りません??』
柊花『大抵のお屋敷の方達とは面識があるのですが……。このお屋敷は……特に……』
菫『なんと……柊華ちゃんでも知らないと……』
ポスト『……僕は知らないなぁ……』
はたまた別の所。
笹美はこの屋敷について見覚えがあった。
それは彼女達の住んでいるところから自転車で三十分ほどした所にあることを。
笹美『そこはみたことありますね、えっとたしか……わしらがすんでいることから🚲で三○分ほどの距離だったような……🍊』
菫『なんとっ!?!? 笹美おばちゃんっぉぃ!!!』
笹美『昔若い頃よくそこの屋敷付近であそんだものじゃよ🍊』
そう、笹美は昔あの屋敷の近くでよく遊んでいたことがあった。
今更になってなんでってなりますが、まぁそれはよしとして。
ポスト『走っていける距離なんだね』
菫『おばあちゃんっぇぇ……』
柊華『それはすごいですね……』
ポスト『僕だって負けてられませんねー!』
菫『ポストさんもさっきさらっとすごい事言ったような……』
ポスト『ん? いやいや、ずっと前から郵便配達で車を使わずに走り回ったらこうなっただけだよー』
菫『車を使わず………???』
柊華『私、面会がないお屋敷があってしまうのは何となく嫌なのでいつかここへいきたいですね……』
ポスト『んで、どうする? いく?』
菫『うーん………菫も興味があります………行きたいです!!』
ポスト………じゃあ、決まりかな?』
笹美『すみません、会計してて遅れました💦大丈夫ですよ😃』
柊華『交通手段はどうする感じですか?私自転車もってないので歩きになってしまうんですけど……』
菫『じゃあ菫が迎えに行きます!!』
ポスト『僕は走っていくので大丈夫ですよー』
笹美『菫ちゃん、十一時にいつものあそこでいいですか?』
菫『はい! 大丈夫です!!』
笹美『わかりました🍊そこで待ってます🍊』
柊華『了解です』
ポスト『わかりましたー♪いきまーす♪』
***
***
午前十時三十五分頃、時計台下。
とても早めに来てしまった笹美は、待っている間携帯でお屋敷のことについて調べていた。
「……お、当たるもんですねぇ……」
「四鬼が出る!! 噂のお屋敷!!」と書かれたサイトを見つけた笹美は早速開こうとする。
………興味本位で開くのもいいけれど、どうしようか。
指が止まった。
「えーっと……『待っている間スマホでネットサーフィンしていてここのオカルトサイトがきになって見たんじゃが……(URLのリンクつき)🍊』と……」
送信し、一息つく。
「……今日はポカポカしていて暖かいねぇ……」
やがてうとうとし始め、時計台によりかかり眠り始めた。
***
***
十時二十分頃、別の所では。
……柊花が行く前にタバコを買おうとコンビニに立ち寄る。
「(いやぁ……主人にバレずに買えるって最高だな……)」
そう思いながらコンビニへ入っていく。
コンビニの中は閑散としていてお客さんも少なく、レジもそんなに混んでいなさそうな雰囲気だった。
レジの前へと歩み寄ると「らっしゃっせー」と気だるげな声が店内を包む。
その気だるげな声が、入店音とともに時々機械のように吐き出されるのを聞きながら、柊花は自分のタバコを探す。
「えーっとたばこたばこ……」
「らっしゃっせー。タバコですか??」
「はい、えっとあのたばこで……メビ○スのオプション一ミリロングの……」
レジ奥にある自分のタバコを指さすと店員はそれに合わせて目線を変え、やがて取り出しバーコードを通しだした。
「はーい、一点で、四八○円です〜」
「あ、じゃあこれで」
「はい、お預かりします〜」
彼女が出したのは五○○円。
くすんでいて汚れが少し目立つその五百円を取り、ピピピと無機質な音が店内に響き渡る。
やがてドロワーが開き、覚束無い手取りでお釣りを取り出し「二○円のお返しになります〜」と彼女にお釣りを渡した。
お礼を言い、まさにコンビニを出ようとした時。
駆け寄ってきたひとつの姿とぶつかり、軽くよろめくも体勢を立て直す。
「……っいた……。……あ、あなたは……」
「やあやあ♪やっと追い付いたよ♪」
ぶつかった主はポストであった。
どうやら本当に走ってきたらしく、ほんの少し息が切れているもニコニコとした笑顔で突っ立っていた。
「お久しぶりですね」
「久しぶりー♪んふふ♪」
少しだけ姿勢を低くして楽しそうに会話するポストと、話しながらも軽くお辞儀をした柊花。
こうして会うのも少しだけ久しぶりであった。
八月に入ってからというものの、皆が皆の事情があり都合がありで、ここ最近は会えずじまいだったから。
「合流ここで出来てしまいましたし、そろそろいつもの集合場所いきますか?」
「だねー」
と何気なく話していると、後ろから「おーい!!」と声が聞こえ、柊花のみが振り向く。
その視界の先には、息を切らして軽く手を振り走ってくる菫の姿があった。
荷物の整理をしていたポストはその声には気づけず、「あれ? ペンと……メモ帳……あれあれ?」と一人で声をあげていました。
「あ、菫さんだ」
つぶやき、軽く手を振り返す柊花の元へ駆け寄り「ひぃ……ひぃ……!! やっと見つけた……!!!」と言いながら膝に手をついて息を整えている。
相当走ってきたのだろうかと思えるくらいの息の切れようにも関わらず汗ひとつかいていない菫の体質はどうなんだと思いながらも、柊花は彼女の背中をポンポンし、次に摩り始めた。
「ってあれ? ポストさんも一緒デスね!!」
「すごい息切れてますが……大丈夫ですか?」
「そ、そうみたいだねー?」
「こ……これくらいでへこたれるほど…………菫はヤワじゃないデス……」
「あまり無理はしないでくださいね……!」
「とりあえず、落ち着いて………な、なにがあったの………?」
ようやく呼吸を整えた菫はゆっくりと顔を上げ、「え? いやぁ、柊花さんを迎えに行こうと思ったんデスが……見覚えのある姿を見つけたので……あと寝坊しました……」と髪の毛を整えながら彼女はつぶやく。
「あ、わざわざありがとうございます! 寝坊は仕方ないですね……」
「見覚えのある方??」
「そうデス! お二方を見つけたので………」
えへへ、と照れ気味に笑う菫の髪の毛はすこしアホ毛が立っている。
「ふふ、かわいいなあ……♪」
彼女が頭を揺らす度にピヨンピヨンと揺れるアホ毛が、二人にとってはどうしても可愛く思えてしまったらしい。
「さて、これからどうします??(アホ毛かわいい……)」
「とりあえず私も飲み物とか買いに行ってきます〜……」
そう言い、菫は少しふらふらしながらコンビニの中に入っていく。
「あ、なら私もコンビニの中で待ちますかね」
「僕も飲み物と万年筆とメモ帳買ってくるよ」
二人もついて行くようにコンビニの中に入っていく。
………と、ここでLINEグループに通知が。
「おっ??」
「(煙草吸いに行きたいなぁ……)」
見ると笹美からのようだ。
笹美『待っている間スマホでネットサーフィンしていてここのオカルトサイトがきになって見たんじゃが……🍊』
そんなメッセージの下には簡潔的にまとめられたURLが表示されていた。
菫『おぉー??』
柊花『あ、いつの間にかメール来てましたね。』
笹美が送信したURLを開くと、「四鬼が出る!! 噂のお屋敷!!」という、なんとも古めかしいゴシック体の記事が出てきた。
「(なにこれ、鬼……?)」
そのゴシック体の下には、こう書かれていた。
「**年**月**日、この屋敷に入った男女五人のうち四人が行方不明になった事件が発生した。見つかった一人に話を聞くと「あれは鬼だ、あれは怪物だ、あれは鬼じゃない、あれは怪物だ」と繰り返し唱えていたという。
警察は残りの四人について調査をしていたが、やがて時効になりこの事件は未解決のまま隠蔽され、そのまま幕を閉じた……」
……なんとも嘘くさいようなそんな文章で閉まっているが、この行方不明のニュースは数年前に報道されたことがある。
ただそれも結果的に、何年か後には隠蔽され、真相も掴めないまま未解決事件として扱われている。
彼女達の世界でのユー〇ューブでも、未解決事件特集のような動画で多く取り上げられているほど、この事件はかなり有名な方であった。
「柊花、これ嫌な予感しない?? 大丈夫かなこれ」
「そうですか? 鬼っておとぎ話のような存在と思っているんですけどね…」
「ふぅ〜ん……あっハイ……ありがとうございマス……え? あぁ袋いらないデス……」
会計をしながら端末を見て、興味なさげに呟いた菫が一番興味ありそうなのが顔に出ている。
「なんかこういうのって心配なんだよねぇ……」
「ふむ……まぁ行ってみないと何も始まりませんし……」
「そうデスか? 私は興味ありマスけど……」
「そうですねぇ。とりあえず集合場所にそろそろ行きませんか?」
「ハイ! 待たせては悪いデス!! 行きましょう!!」
「そうだねー、よし、また一走りしますか……」
「そんなに走ると体力持ちませんよ……」
「やっぱ走るんデスね……柊花ちゃんと私はゆっくり行きマスので先にいっててください!」
「はーい! 気をつけていくよー!」
再び走っていくポストを見送ったふたりは顔を合わせてゆっくり歩き始めた。
***
***
時は十時五十二分頃。
程なくして、彼女達は集合場所に着く。
久しぶりにも関わらず変わっていないその姿を見て少し安堵する者もいる。
「えへ、お久しぶりデス!」
「ひさしぶりー♪」
「お久しぶりです」
「あっ、お久しぶりです」
「ほんじゃあ、早速行きましょうか!!」
「そうですね」
お屋敷は森の中。
その森を、入口から歩いて約二分のところにお屋敷がある。
彼女達が今いる時計台から森の入口まで、約八分。
時計台からお屋敷までは約十分というところで行ける距離にある。
ただ彼女達の住んでいるところは、その時計台から自転車で二十五分程の隣街にある。
そのため時計台の傍には駅があり、それぞれ隣街方面、森方面と線が繋がっている。
彼女達が今いる時計台は初めてオフ会した時に集合した場所であり、以来会う時にはその時計台に集合するようにしているそう。
………深く、深く。
まるで誘われるように、四人は進んでいく。
だんだんと視界が悪くなり、朝にもかかわらず薄暗い森の中はとても気味が悪いものであった。
そして、やがて急に視界が晴れたかと思うと………大きな建物が視界に入った。
「懐かしいのう……」
ポツリと、笹美はつぶやく。
そこは紛れもないお屋敷であった。
菫が端末を出して、あの時の画像を表示して見比べても、それは全くの同一だ。
「……ここが……お屋敷……?」
「うひゃあ〜……」
「ふむ……ここで間違いなさそうですね」
笹美が思い出に浸っている中、菫は「小鳥ちゃんだ〜!!」と指に止まっていた小鳥と戯れていた。
「菫さん……」
「んん……。……??」
ポストと柊花がお屋敷を眺めていると、お屋敷の窓の方に
鬼の角のようなものが生えた人影を目にした。
「……ん?なんだあれ……」
「……??」
見間違いか、と柊花は思っていた。
ポストはもう少し細かく見てみる。
………あろう事か窓に映る影は間違いなく「鬼の角が生えた人」だということが分かった。
しかしその影は直ぐに消えてしまい、窓には見るからに青ざめたポストの顔があるだけだった。
「ふほぉ……これやばいなあ……。みんなに言った方がいいかなあ」
「あ、皆さんさっきあそこの窓になにか角の生えた人影が見えていたんですよ。気づきましたか??」
「小鳥さんばいばーい……ふぇっ??」
「……??」
やはり菫と笹美は気づいていなかったようだ。
ふたり共々キョトンとした顔で首を傾げていた。
「……私の見間違いでしょうかね。とりあえず報告しておきますね」
「いや、僕もみたよ」
「ふぇっ???」
「?」
「見間違いかもしれないけど、窓から見えたんだ。でもすぐ消えてからは殺風景が広がるだけだった」
「ほえぇ……どうやら噂は本当みたいデスね……」
「ふむ……間違いなさそうですね……皆さん一応気を引き締めて行きましょう」
「そうじゃな……」
「うん」
「はーい!! れっつごー!!」
菫を先頭に歩いていく。
近づく度に佇む屋敷の臨場感に押されながらも、屋敷の扉の前まで着いた。
扉は両開きで、円錐形の頑丈な木製の扉だった。
「………(なんとかパンチで壊せないかな……)」
「………(これじゃあ燃やせないか……)」
アスリートとメイドがどこか奇人変人な考え方をしている矢先で、菫が「なんとか開けられないかなぁ………」と扉を見渡す。
「何かわかりましたか??」
…………よく見てみると鍵穴はなく、扉が開いている。
まるで「入っておいで」と言わんばかりのセキュリティの低さが目に見えた。
「あれ、これさ、閉まってないよ? 鍵穴ないし……」
「ふぇっ???」
「ふむふむ………」
「………」
ポストが静かに手を添えると、きぃぃ……と、古めかしく音をあげて扉は開く。
全員が入り終えたあと、直ぐにバタンと扉は閉まった。
カチャン。
……鍵穴は無いはず。
それなのに扉の方で鍵が閉まる音がしたのを、全員が聞いていた。
「あっ……(察し)」
「………? 閉じ込められた…??」
「そのようじゃな……」
「ふぇっ???」
菫が扉を開けようとした。
……案の定、鍵はかかっていた。
途端に襲われる寒気に、彼女達は少し身をふるわせる。
まるで彼女達の近くに、なにかがいるかのように。
「みんな、落ち着いて。こういうときこそ冷静でいこう」
「ほえぇ……」
「……さっむい………」
「風邪引きそうじゃな」
屋敷の中は静かで、壁際に付けられた街灯が薄暗く明かりを灯している。
正面には階段、左右丁字路のように廊下が別れていて、それぞれカーペットが敷かれている。
見るからに誰か住んでいそうな雰囲気を醸し出しているそんな屋敷から、
「────さぁ、鬼ごっこの始まりだよ」
どこからか、そう聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます