対決

 「りっ、六花ちゃん?」

鬼の姿を見た智夏が、驚きの声を上げる。

身体に残っている布に、名札が付いていて、宇藤六花の字が見えたのだ。

祖父から聞いたことがある。人は時として鬼に変化へんげすると。

 「どうしよう、これじゃあ退治できない」

智夏は呪符をポケットにしまい、後ポケットからステッキを出し、鬼から距離を置いた。

 「ち   か  わ  たしの    もの」

六花としての意識が残っているのだろう、鬼が智夏へと手を伸ばす。

智夏はステッキで鬼の腕を払った。鬼の力で腕を掴まれたら骨が砕かれる。

 「六花ちゃん、私が分かるの?」

 「ち    か  ぁ」

 「私が分かるなら、正気に戻って」

りっかが両腕で抱きついてくる。しかし街灯に浮かぶ顔は人の物ではない。

智夏はステッキを駆使しながら、鬼の攻撃をかわすが、防戦一方で、攻撃できない。

 「このままでは、いつかやられるわ」

明光が見えないまま、ただ鬼からの攻撃を受ける。

      バキ!

ステッキが中央から折れ、先端の飾りが飛んでいった。

 「なんで魔法のステッキが折れるのよ!  あのくそ爺い、魔法なんて使えないじゃないの!」

短くなったステッキを構え直し、智夏は祖父の顔を浮かべた。

 「呪文!  心からの呼びかけ!」

鬼が再び彼女との距離を詰めた。

 「心から・・   」

 「私は六花を助けたい!  いや、助ける!」

智夏は呪符を取り出し、自分の額に当てた。

 「六根清浄!」

当てたまま鬼を見る。鬼の霊的波動の動きを見る。人間を鬼へと変えた何かがあるはずだ。それを探る。

自分の霊力を呪符へと送り、鬼の攻撃をかわしながら探る。

鬼の太股ふとももの所、波動を循環しているような部位が見えた。

 「オン・アビラウンケン・ソワカ! 私は、六花を助ける!!」

智夏は靖義に教わった呪文を唱え、鬼の太股へとステッキを打ち込んだ。

折れたステッキの中から、鋭利な先端が太股に刺さり、青い炎が鬼の身体を一瞬で包み込んだ。 

 「ア  ビラ  ウンケン    ソワ      ・・ カ」

智夏は炎ごとりっかを抱きしめ、そのまま倒れ込んだ。

炎が消えた後、倒れている三人の少女を、薄い街灯が照らしていた。


 「そこの二人を頼む」

靖義は智夏を抱き上げると、田垣に背を向け歩き出した。

智夏の手には、まだステッキが握られていたが、形を成していない。

彼女が手にしていたのは、鋭利な先端を擁している独鈷杵だった。

田垣は煙草に火をつけた後、六花に視線を移す。

 「孔雀明王呪が、鬼の波動を吹き飛ばしたか。陰陽師と退魔師の素質を持つとは・・・  しかし鬼退治はこれからだぞ」



 翌日智夏は顔を舐められる感触で目が覚めた。

目を開けると、見慣れない動物が鎮座している。

猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尾。

     鵺だ!

 「何よこれ!」

 「ハハ、智夏の使い魔じゃ」

 「いやー こんなの使い魔じゃなーーーい!」

智夏は陰陽師にはならないと、心から誓った。














 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時代は陰陽少女なんだから チャイルド あずびー @azuby65

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ