妬み

 「智夏、これをやろう」

靖義が魔法少女が使うような、カラフルなステッキを取り出した。

「これって!」

突然のプレゼントに智夏は、驚きの表情で受け取った。

「呪符が失くなった時に使うがよい。普段はこうしておけば、短くなる」

靖義がステッキをたたむと、20センチ弱位の長さに縮まった。

「そして、魔法の呪文は」

「呪文があるの?」

「ある」

頷いた後、靖義は智夏の耳元で、小さな声で呪文を唱えた。

「覚えたか?」

「うん」

「この前のように、儂らが間に合わない時に使うがよい」

六花を救って倒れた時、靖義逹が隠れて見ていたのを、彼女は知らないようだ。

「わかった。ありがとうおじいちゃん」

智夏は、何度もステッキの伸縮を試したあと、靖義に満面の笑みを向けた。



 翌朝、智夏はステッキをランドセルに忍ばせ登校した。

教えてもらった呪文を、昨夜試したが、上手く発動しなかった。

 「ハハハ、ステッキを使っての呪文の発動は、心からの呼びかけ必要じゃ」

今朝、靖義に質問した時に、返された言葉を思い出す。

 「心からの呼びかけって、どういう事だろう」

首をひねりながら教室に入ると、彩音が六花に詰め寄られている光景が目に入ってきた。

 「何してるの!」

智夏は慌てて、二人の間に入った。床にはプチキュの筆箱が落ちていて、ペンが散らばっている。

 「宇藤さんが、私の筆箱をわざと落としたの」

涙目で、彩音が智夏に事情を話す。

 「言い掛かりよ! 言い掛かりをつけるから、佐倉さんに言い返していただけよ」

 「言い掛かりじゃないわ、わざとやったもん」

 「それを言い掛かりというのよ」

 「もうやめよ、授業が始まるし」

智夏は六花の取り巻きの娘に(席に連れて行って)と目配せをした。

その娘も争い事が嫌いなのだろ、彼女の目配せを理解して、六花をなだめるように、その場を離れていく。

智夏は散らばっているペンを筆箱に直し、笑顔で彩音に渡した。

 「はい、先生が来るよ、席に戻ろう」

 「うん、ありがとう智夏ちゃん」

六花は自席に座りながら、智夏達を憎悪の目で睨みつける。

 「智夏ちゃんは、佐倉の方ばかり。佐倉がいなければ・・・」

彼女は、強い力で、ポケットの石を握りしめた。



 彩音が一人徒歩で家路を急ぐ。陽は暮れ、住宅街の道は暗く静かだ。

塾の帰りに自転車に乗ろうとしたら、パンクしていた。普段なら母親に電話して迎えに来てもらうが、この日は弟が熱をだして寝込んでいるので、頼めなかった。

 「街頭が少ないね」

何となく言葉を口に出し、暗い道を見つめた。

時刻はまだ20時を過ぎた位だが、人通りがない。家から流れてくる、テレビの音や雑音も聞こえてこない。

 「こんなに静かだったかな」

ひとりごちながら、足を速めた。

     カサカサ!

背後で微かな音がした。振り返り、暗い道に目を凝らすと、街頭の下に影が見えた。

 「さ   く・・・・・・・ら」

確かに自分を呼ぶ声が聞こえた。しかし人の声ではない。

彩音は膠着し、その場から動けなくなった。

   怖い!  しかし声が出ない。

 「さ・・・・・・    くら   いら    な   い」

彩音は街頭に浮かぶ、異様な鬼の姿を見て気を失った。

鬼が彩音へと近づき、頭を掴もうと、手を伸ばした。

 「鬼!  そこまでよ!」

智夏は呪符を、鬼へと向けた。




 












 

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