第46話 まだまだ続く、修行の日々が。

 渉は、最近勉強していた。

 もとから勉強熱心というか、スポーツをするときなども、まずは本を読んで、知識から頭に入れるタイプだった。プロ並みの知識を持った初心者といったところだ。


 渉が、最近熱心に勉強していたのは、恋人同士の営みについて。いわゆる西園寺家心得に書いてあったようなことだ。

 清華とのファーストキスを果たしたその夜から、渉は猛烈に勉強していた。


 試してみようか?


 渉は、とりあえずキスをレベルアップしようと考えていた。

 清華とキスしながら、肩に置いていた手を背中に回す。

 清華の唇を軽く吸ってみる。

 清華は目をつぶったまま、特に嫌がる素振りはない。


 これはいけるか?!


 渉は、大胆に舌を入れてみた。

 本に書いてあったように舌を動かす。


 これは、西園寺家心得にあったやつですわ!


 最初はいきなりいつもと違うキスに戸惑い、舌の感触にびっくりしたものの、清華は母親の教えを思い出した。


 手をつないできたら握り返し、相手が目を閉じたら同じように目を閉じる。同じようにしていれば大丈夫。後は相手にお任せする…んでしたわね?

 同じようにする?って、私も舌を入れればよろしいのかしら?


 清華は舌を出そうと右に左に動かしているうちに、渉の舌とからみあい、初心者同士のはずが濃厚なキスに発展してしまう。


 なんか、頭がフラフラして…。


 清華の膝が折れ、渉が覆い被さるような形になる。


 ヤバイ!

 予想以上に良すぎる!


 渉は、夢中で清華の唇を吸い、舌をからめた。

 一方清華も、キスにこんなに夢中になるとは思わなかった。

 最初にしたキスは、本当に幸せで、胸がキュンとした。キスする度に、大好き!という気持ちが大きくなった。

 今のキスは、頭の芯がとろけてしまいそうで、何も考えられるれなくなる。清華は初めて性的に感じていた。けれど、この気持ちの良い感じが何なのかはわかっていなかった。


 渉は、清華の頭を撫で、耳たぶをいじり、首筋に指をそわせる。身体の脇をなぞるように手を下に下げ、ウエスト辺りをまさぐる。


「ダメだ!おしまい!終了!」

 思わず右手が清華の洋服の中に入りそうになり、渉はガバッと清華の上から飛び起きた。

 これ以上は、確実に清華の許容範囲を超える行為になってしまうと、ギリギリ残った理性が渉を押し留めた。

 清華は、トロンとした目で渉を見上げる。たぶん、自分のくびれたウエストが丸出しになっていることにも気がついてないだろう。


「あのさ、今のキス、どうだった?」

「イヤですわ。そんなことを聞いて。」

 清華が真っ赤になって顔を覆う。

「いや、あのさ、僕はもっとずっとしてたかった。サーヤは嫌だった?」

「…嫌じゃありませんでした。」

 渉は清華の手を引っ張って座らせた。

「でもさ、知らないうちは、こんなことできないって思ったんじゃない?」

 清華は、初めて西園寺家心得を読んだときのことを思い返してみた。

「そうですわね。そう思ってたかもしれません。」

 清華はコクリとうなずく。

「さっきみたいなキスは、二度としたくないと思う?」

 清華は洋服の裾をいじりながら、うつむいて小さな声で答える。

「…もっとしたいです。」


 ウワーッ、なんかこれはこれで萌えるっていうか、最強に可愛いすぎる!


 思わず言葉で攻めたい欲求に駆られつつも、清華のHへの恐怖心を和らげるという当初の目的にたち戻る。

「子作りも同じだと思うよ。どんなことかわからないから怖いだけで、してみればキスみたいにまたしたくなるかもしれない。」

「そうでしょうか?」

 清華は不安げに渉を見つめる。

「でもね、無理にする必要はないんだ。徐々にステップアップすればいいんじゃないかな?」

「ステップアップですか?」

 渉は、清華のオデコにキスした。

「勉強と一緒だよ。反復すること、予習復習しながら、少しずつ先に進んでいけばいいんだ。子供を作る行為はその先にあって、お互いがお互いをもっと知りたくなった時に、自然としたくなるんだと思うよ。」


 渉は三ヶ月計画をたてていた。


 最初の一ヶ月はキスを、二ヶ月目は徐々に身体に触れ、三ヶ月目には!!


 勉強熱心で真面目な生徒会長は、恋愛にも真面目だった。

 しかし、計画通りに進めるには、渉の精神力が必要になることに、まだ気がついてなかった。


「渉君…もう一度…復習ですわね?」


 顔を赤らめながら渉を見上げて言う清華に、渉の背筋はゾクゾクする。


 こんな勉強、毎日だって、一日中だってやってやる!


 渉は清華の唇に吸い寄せられる。二人の唇が合わさり、まるで飴をころがしているように頬が動く。唾液がからまりたまに音が鳴る度に、渉の手がムズムズと動きだしそうになったが、渉は数式を頭に思い浮かべて、なんとかキスだけに留めた。


 そうですわ!渉君に葵の胸の感触を覚えられたまま、一日を終えるわけにいきませんわ。


 清華は、渉の舌の感触に慣れ、今までキスにだけ集中していた意識が、ふとさっきの光景を思い出した。

 清華の闘争心に火がつく。


 私だって!


 清華は渉の手首をつかむと、自分の胸に押し当てた。


 渉の頭から数式が弾け飛んだ。


 なんだ、これは?

 自分の苦労はいったい?!


 清華は風呂に入った後なのか、ブラはしておらず、渉の掌に清華の生乳の感触がしっかりと伝わってくる。以前、不慮の事故で触ってしまった時とは、全く異なる柔らかいその感触。指の間には何やら突起した小さな物体まで!


「あの、ちょっと、これは…、かなり予習がすぎるかと…。」

 渉が半分起き上がって言うと、清華は真っ赤になりながらも、渉の手首をつかんだまま目をギュッとつぶっている。

「だって、葵の胸の感触を覚えられたままでは嫌だったんですもの。」


 こ…これは、来月の課題。

 いや、サーヤがいいならいいのか?!


「無理はしない方が…。」

 そう言いながらも、渉は清華の胸から手を離すことができない。


「無理はしない…いや無理なら無理と…ほんのちょっとなら?」

 渉は、どんどん理性が崩壊していく音を聞いた。

 それくらい、清華の胸の感触は素晴らしかった。


「葵の胸の感触は忘れていただけましたか?」

 恥ずかしさでいっぱいになりながら、清華は渉の手首を離した。

 渉は、ブンブンとうなずいて、清華から離れると、清華に背をむける。


「どうなさいましたの?」

「いや、ちょっとトイレ…。」

 バタバタと部屋を駆け出した渉は、しばらくトイレから出てこれなかった。

 まだまだ修行が足りない渉であった。


 頑張れ東條渉!

 修行の日々はそんなに続かない…かもね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お嬢様の極貧生活 由友ひろ @hta228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ