第25話 王位を継ぐ者
──ジャイアヌスが追放されてからおよそ一年の月日が経ち、遂にその日がやってきた。そしてソフィはその様子を傍らで見守る。
公爵をはじめとしたこの国で有数の貴族が招かれたその前で、ひときわ目立つ正装でレックス君は国王様の前に立っている。
出逢ったばかりの頃の、たどたどしい雰囲気など微塵も感じさせない。
「レックスよ、前に」
「はっ!」
決闘による傷もすっかりと癒えたレックス君は、引き継ぎの儀を行う為に国王ウィリアム様の前に片膝立ちし頭を垂れる。
……思えばここまで本当に大変だったな。
死にかけていたレックス君が、今やこの国の頂点に立とうとしているなんて未だに信じられない。
片や次期国王の筆頭であったジャイアヌス様は、王族としての力の及ばぬ国外への追放処分が下されその全てを失った。
旅をするヘンリー義兄様に聞いた話では、合わせて追放されたヨハンナとの間に子供が産まれたそうだ。
……うん、お似合いの二人だし異国の地で幸せに暮らしてくれるといいのだけれど。
「それではウィリアムの名において、レックス・グスタフをアイテルナ王国、第四十二代国王に任命する。この任命に異論が有るものは、前に出よ!」
貴族の皆は沈黙で、レックス君の王位継承を承認する。
しかし、もしもウィリアム様が頑張ってくれていなければ、こんなに簡単に事は運ばなかっただろう。
ウィリアム様はジャイアヌス様の一件があってから、王国に蔓延る不正を正す為に奔走された。それは公爵家であろうとも関係無しにだ。
しかし既にジャイアヌス様が実権を握っていた所も多かったようで、多少ならずに強引な形をとった国王様の命は狙われることになったのだが、オットーさんをはじめとした騎士がそれを防ぎ難を逃れたらしい。
命が危険に晒されたにも関わらず、ウィリアム様は笑って次代の国王の為に行わなければならないと奔走されたそうだ。
……本当にありがとうございます。
かくいう私はというと、裏でエリザベス様と共にさまざまな情報を集めウィリアム様のお手伝いをした。
貴族の繋がりというのは奥が深いようで、知らなければならないことが多すぎる。
そして情報こそが、ここで上手く生きていくために最も重要な物なのだと教えてもらい、エリザベス様の情報網を引き継ぐこととなった。
こうして様々な準備を経て、いよいよ国王様より御言葉がレックス君に掛けられ、その頭の上に王冠が被せられる。
「さぁ、皆に決意を表明するのだ」
「はい」
正式に王位へと就いたレックス君は私たちが立っている方に振り向き、国王として最初の仕事をする。
「私は弱い。一人ではここに立つことは出来ないし、そもそも生きていることすら出来なかっただろう。それでもここに立てているのは支えてくれる皆のお陰だ。改めて礼を言う」
国王からの最初の御言葉が、謝辞であるなどこれまでに聞いたことが無かったのだろう。
レックス君が謝辞を伝えると過去を知らぬ貴族達はざわめくが、その人柄は既に皆が知る所なので直ぐに受け止められた。
「今度は私が国王として皆を国民を支えなくてはならない。しかし一人では成せることも少ないだろう。だからどうか私に力を貸してくれないであろうか?」
レックス君の史上最も腰の低いであろうその宣言に、皆が拍手をして受け入れる。
……良かったねレックス君。
これで名実ともに国王となったレックス君に、元国王となったウィリアム様が再び声を掛ける。
「それではこれで引き継ぎの儀を……」
「待ってくださいウィリアム様。まだ私には伝えなければならないことがあります」
予定に無かった発言に、私を含め皆が驚く。
……えっ、えっ、何?
レックス君は躊躇うことなくこちらに向かって来て、私の手を取って片膝立ちをして指輪を渡してくる。
「ソフィ、これからも私と共に歩んでくれませんか?」
「はい、よろしくお願いします」
私が承諾して指輪を受けとると、突然の出来事に皆は一様に驚いた表情をしていたが、それは直ぐに祝福の笑顔に変わり、私たちは拍手で包まれる。
……まさかレックス君にサプライズされるなんてね。
私は左手にはめられた指輪を右の手で包むように握りしめる。
そして今回はレックス君から唇を重ねられる。
「大好きだよ、ソフィ」
これで終わりでは無くてこれからもっと頑張らなくてはいけないけれども、記憶が戻ったあの日のを考えたら、こんなに幸せになれる日がくるなんて思わなかった。
これからも大変なことはまだまだあるだろうけど、きっとレックス君と二人──いや皆と一緒なら乗り越えられると思う。
──こうして、私は幸せになりました。
─おわり─
悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。 シグマ @320-sigma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます