第24話 下される裁定


 レックスがオットーから学んだ剣術は人を傷付けるのではなく、人を守るための剣術である。

 そもそも剣術を学ぶのもソフィを守るためであり、その為だけに剣を握ってきた。


──それは国の行く末を決める決闘でも変わらない。


「レックス君! レックス君!!」


 ソフィは観客席より移動し、闘技場内から通路に運ばれてきたレックスの元に駆け寄り、人目も憚らずその名を叫ぶ。

 しかし左腕を切り裂かれ倒れた衝撃で頭を打ったレックスは、ボヤける意識の中で辛うじて返事をする。


「ソフィ様……決闘は……決闘はどうなりましたか……」


「そんなことはどうでもいいんだよ! 死んじゃ駄目だよレックス君!!」


 ソフィは必死に声を掛けるのだが寄り添い続けることは治療の妨げになるので、オットーが肩口を持ち引き剥がす。


「ソフィ様、お気持ちは分かりますが、今は治療が先決です」


「でも、でも……」


「レックス様なら大丈夫です。あの程度で死ぬような男ではありません!」


 ソフィはレックスの側に居たい気持ちを抑え、運ばれていくレックスを見送った。

 そして速やかに医務室へと運ばれたレックスは、国王の指示を受けた医術師による懸命の治療が行われる。

 それはこの国の未来を守るためにも。



──片や己を力を過信した男は、全てを失う。


 勝ち誇った顔をするジャイアヌスに向けられたものは喝采の拍手ではなく、憐憫の眼差しであった。


「俺の勝ちだ!」


 ジャイアヌスのその叫びは誰にも届くことは無い。

 そして国王の命を受けた衛兵が駆け付け囲まれる。


「ジャイアヌス様、剣をお渡し下さい」


「何だ御主たちは、無礼であるぞ! それより早く勝利の銅鑼を鳴らさぬか!!」


「まだお気付きにならないのですか、ジャイアヌス様。全てはもう終わっているのです」


「何を言っておるのだ……」


 ようやく周囲を見渡すだけの冷静さを取り戻したジャイアヌスであったが、未だに現実は受けとめられずにいる。


「何故だ! 勝ったのは俺だぞ!!」


「既に勝敗は問題では無いのです。今回の件については全て国王様が判断なされるでしょう」


「そうだ、父上なら……父上はどこにいるのだ!?」


「……分かりました、国王様の元にお連れしますので剣をお渡し下さい」


「そうか、それならば先に言うが良い」


 ようやく剣を引き渡したジャイアヌスは、レックスを治療するよう指示を出した国王ウィリアムのいる貴賓席に連れていかれる。

 

「ジャイアヌス……」


「父上! これでお分かりになったでしょう。所詮、平民は平民なのです。王族に逆らうことがどれほど愚かなことなのか……」


「もういい! それ以上は口を開くでない!!」


 国王は低く怒りを込めた声でジャイアヌスの言葉を遮り、そのまま断罪を始める。


「御主を信じ待ち続けてきたが、それは誤りであったようだ……」


「何を言っているのです、父上……」


「己のしたことの善悪も判断出来ぬように育ててしまった私の罪も重いだろう。だがまだやらねばならぬ事が残っている」


 国王の合図により、今度は力ずくでジャイアヌスは捕らえられる。


「何をする!」


「連れて行け。そこで己が何をしたのか、悔い改めるが良い」


 ジャイアヌスは牢に閉じ込められ、外部と一切の接触を絶たれる。

 そして改めて下された裁定は、数日後に国中へ届けられる。


[ジャイアヌス第二王子およびその侍従達の国外追放]


 この知らせは闘技場での出来事を知らぬ市民にとっては突然の知らせであり驚き混乱が広まるも、彼らを治める多くの貴族が冷静に受け止めた為に直ぐに収まるところとなった。

 しかしジャイアヌスの追放は彼を支援してきた貴族にとっては当然に不利益を被る話である。

 

 決定を覆そうと抵抗をした者、甘い汁を吸って不正を行っていた者その全てを洗いだし、国王は徹底的に腐敗の一掃にも取りかかった──そう、全ては次代への引き継ぎを円滑に行う為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る