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「は?」

「革命よ、革命。学校中の奴ら、見返してやるの」

「……君は、やっぱり僕のイメージ通りの人なんだね」

「は、何それ、きも。超きもいじゃん」

「……ああ、ごめん。えっと、その、話すと、長いけど」

「長いならいい」

「……で、その内容って?」

「西村先輩の恋人になる」

「……は?」

 訳が分からなかった。その先輩の恋人になることが、何故革命に繋がるのだろう。

「えっと、その、誰? ニシムラ先輩って」

「は? 知らないの? サッカー部のキャプテン」

「……ごめん、知らない」

「はぁ、まぁ、そうかもね、あんたなら」

「……その彼とは知り合い?」

「全然。他人も他人」

「え」

 学内で一番顔が良く、人気者の先輩の恋人になれば、周りを見返すことができる。

 真夕架の弁はそんな風にまとめることができた。

 馬鹿げている、浩幸は思う。

「本当に、その先輩と付き合えたら、革命に繋がるの?」

「学校の全員が、あたしを見る目を変える。今まであたしのことをゴミみたいな目で見てきた奴等の驚く顔が目に浮かぶ」

「……」

「あんた、西村先輩の価値、分かってないわけ?」

「価値……?」

「サッカー部、キャプテン、イケメン、大学も推薦が決まってる、実家もお金持ち」

 そんな人が、君を相手にすると思う? その言葉は飲み込んで、浩幸は返す。

「もう、彼女とかいるんじゃないの?」

「いない。二ヵ月前に別れたことが確定してる」

「……」

「えーと、あれ、なんだっけ、ゴコ……ゲコ、下剋上ってやつ」

 自信ありげに言うその様が、妙に滑稽だった。彼女と別れたからと言って、相手にしてもらえるとは限らないのに。

「とりあえず今日、連絡先を訊く。言っとくけど、あんたと知り合わなくても、今日から計画を始めようと思ってたから」

「……じゃあ、なんで、僕を誘ったの?」

「……それは」

 心細いから? ――なんて訊いたら殴られそうなので、浩幸は黙って昼食最後の一口を頬張った。


     ◇


 翌日の昼休み、いつも通り浩幸が屋上前踊り場にやってくると、やはりそこには真夕架がいた。不貞腐れたような顔をして、縛った髪を弄んでいる。

 一瞬だけ目が合う。言葉を交わすこともなく、機嫌の悪そうな空気からなるべく距離を置くようにして、浩幸は黙って階段に座り込んだ。

「断られた」

「……え、何を?」

 黙々と炭水化物を胃に放り込んでいると、背後で真夕架がぶっきらぼうに呟いた。

 次の咀嚼に待ったをかけられた浩幸は、一度口を閉じて、それから訊き返した。

「連絡先交換」

「それは……ご愁傷様だね」

「うるさい」

「……ごめん」

「でも、あたしは絶対諦めない」

「……その先輩の恋人になることだけが、周りを見返す手段なのかなぁ」

「なに、文句あんの?」

「……いや、その、文句っていうか、単純な疑問で」

 だって、あなたがクラスメイトから距離を置かれているのは、他ならぬその見てくれや、振る舞いのせいでしょう? 浩幸は思う。自分自身だって、教室に居場所がないのは、自分で居場所を作ろうとしないからだ。そんなこと分かっていた。自明なことだった。

 だから、そのステップを飛ばして周囲からの視線を変えたいだなんていうのは、きっと傲慢なのだ。

「あんたは周りを見返したいって思ったことないの?」

「うーん、別にないかなぁ。だって僕は、自分のしょうもなさも不甲斐なさも、自分の責任だと思ってるし、それが嫌で、変えたいとも特に思ってないし」

「つまんない男」

「……平崎さんは、不安なんでしょ。自分の不安定さが」

「は? なに、うっさ、きも」

 急所に刺さってしまったのか、焦りを繕うように真夕架は立ち上がり、そう言い棄てて階段を降りていった。

 一人になった踊り場、そうだ、これこそがいつもの平穏だと、浩幸は心安らぐ。

 脳裏に彼女の横顔を残しながら、ポケットから音楽プレイヤーを取り出して、イヤホンを耳につける。浩幸が唯一趣味だと言えるのが、パソコンでの楽曲制作だった。不器用な彼は楽器が弾けなかったが、打ち込みならばマウスとキーボードをいじるだけで、曲が作れる。好きなアーティストの見様見真似でも、何も持っていないと思う自分が何かを形にできることは嬉しかった。搔き集めても大した嵩はないプライドの半分以上は、そこにあった。

 ――例えば自分の歌で、周りをあっと言わせることができたなら?

 真夕架とのやりとりを思い出し、ふいにそんな思いが浮かぶ。

「……出来すぎた夢だ」

 思わず呟いて、浩幸は自嘲した。

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PUNK GIRL'S ODORIBA REVOLUTION 蒼舵 @aokaji_soda

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