第31話 2・1・1 ステージⅡ

 僕は荒野に立っていた。

 枯れた大地だ。

 曇り空の下には痩せた土が広がる。

 視界の中に、木々や草と言った障害物は殆ど見られない。

 前後の記憶は、曖昧だった。

 シオとの最後の会話が途切れ、そして、目覚めたら、この場所に居た。

 その間に、誰かに会ったような気がする。

 だけど、それは夢のように曖昧で、記憶のどこにも残っていない。


「おめでとうございます」


 無機質な女性の声が聞こえた。


「あなたは見事、生き残られました。私達の課した試練を乗り越え、更には、自らの智力を持って、見事島を脱出した」


 振り返っても、そこには何もない。

 乾いた風が吹いているだけ。声は、どこから響いているかも分からない。


「勝者であり、強者である。その結果を私達は称え、そして、ステージⅠの踏破者である事実を認定します」


 僕は、腰に差したナイフの柄を握りしめる。


「あなたが救出した他の参加者は、私達の保護下に置かれています。救い出した仲間と、そして愛すべき者を助けたければ、あなたはこの地で生き残るしかありません」


 その言葉に、頭の中の何かが切れた。


「生存のルールは既に、ご存じですね?」

「黙れ」


 僕の声は、誰にも届かない。


「それでは、ステージⅡを始めます」


 声は宣言をすると、消え失せる。


「……」


 手にしたナイフを地面に叩き付けたくなる思い。

 ただ、がむしゃらに叫びたくなる思い。

 それらを、時間を掛けて、全部捨て去る。

 そして僕は歩き出す。

 目印は、何も見つからない。

 自分がどこに行こうとしているのかも分からぬまま、足を動かし続ける。

 やがて、ようやく変化を見つけた。

 そこに二人の人間がいる。

 一人は、僕と同じぐらいの少女。虚脱感をまといながら、亡霊のように佇む。

 彼女から見れば、僕がそう見えただろう。

 きっと、彼女も僕と、同じ様な運命を辿っている。

 ただ、仲間を救うために戦い続け、そして、全てを失った人間だ。

 もう一人は、地面に倒れていた。

 こちらも僕らと同じ年齢の少年。

 だが、彼は、手にした銃で胸を撃ち、自殺していた。

 本物の絶望を見つけたような、そんな死に顔だった。

 僕らは、そんな死者を間に挟み、見つめ合う。

 頭に浮かぶ選択肢は、二つだけだ。

 殺し合うか。

 あるいは、ここで諦めて、死を選ぶかだ。


「私達は、いつまで戦えばいいの?」


 彼女は溺れるような声で呟いた。


「足掻ける所までだよ」


 僕は呟く。


「どれだけ絶望を押しつけられても、ゴールを決めるのは、自分自身だ」

「……」

「だから、諦めることなんて出来ない。だって、ここで諦めるのは、他人に選ばされた運命を受け容れるだけになる」


 少女は僕を振り返った。

 その腰には、刀が装備されていた。

 彼女は、その柄に手を掛けながら、言った。


「その為には力が要る。未来を切り開く為の力が」

「そうだね。でも、それは、戦うだけじゃ、手に入れられない」


 近づくと、少女は、いつでも僕を切り捨てられるように、全身に力を入れる。

 僕はそれを見ながら覚悟を決めた。


「どんな理由があったって、殺し合うなんて間違っている。僕らは、そんな運命に抗う為の、覚悟を手に入れないと」


 彼女は、動かず、殺気に満ちた目を僕に向ける。

 僕は素手のまま彼女に立ち向かい、そして笑った。

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能力者達のキリング・フィールド・アイランド @hamami

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