まずは、とにかく面白くて続きが気になり一気に読み進めました。
物語は新卒の主人公、川野が引っ越してきた築年数の古いアパート「水源荘」を舞台として始まる。ペットのイモリ、ビリーの水槽からメダカが消えるという小さな怪異がやがて身の毛もよだつ恐怖へと繋がっていく・・・
物語の筋書きが見事で、日常に潜む恐怖が肥大化する様に目が離せなくなる。人生を俯きながら生きているように思われる主人公が行動を起こし、怪異の謎に迫り、戦う様は思わず共感できた。
川野、奇妙な隣人の沼崎、バンドに夢をかけるイズミはそれぞれに苦悩を抱えている。彼らの人生模様が平行して進んで行くのも面白い。
映像が目に浮かぶようなリアルな情景描写と細やかな心理描写が素晴らしく、文章も非常に読みやすい。ラストの展開はスピード感、緊張感があり、まさに手に汗握りながら読みました。読後感も妙味があり、良かったです。
大変素晴らしい作品でした。商業本としても充分売れるのでは、という上質な作品です。ホラー好きな方にぜひ読んでもらいたいです。
ホラーの一番の魅力というのは、怪異の正体にかかっていると思う。この話を読んで改めてそう感じた。
少しずつ侵されていく日常。水源荘に引っ越してきたばかりの青年、川野は違和感を覚えるも、新しい生活のストレスや悩みにより徐々に気に掛けなくなってしまった。彼の中に渦巻く孤独、郷愁、後悔。そんな中起こったある事件により、物語は急加速していく。最後には水源荘に潜むモノの「正体」を知ることになるのだが、その過程が面白い。
詳しくは語れないが、怪異が起こった背景から周囲の反応に至るまで、全てが迫真的なのだ。怪異が現れている以上、現実から逸脱していることは間違いない。それなのに妙に現実じみたものとして納得させられてしまう、その技量により、読者は怪異の正体をより恐ろしいものに思われてしまうのだ。
春。新しい場所で生活を始める方もいることだろう。住処を探す前に、ぜひこの話を読んでみてほしい。
怪異は、どこにいるのか分からないのだから。