第4話 このロリショタコン共め!

「う、血生臭い」

洞窟の中は耐え難い匂いで覆われていた。ゴツゴツした床には血のりがこびりついている。

「元々洞窟に住んでいた魔物のものだろうな。ガーゴイルに虐殺されたのだろう」

「そのうち攫われた子供達がこうなると」

「可能性は高いな。急がねば」


「待て」

前を歩いていたTASさんが不意に足を止める。

「この先の広くなっているところ、ガーゴイルの溜まり場になっているようだ。一匹でも逃すと子供達が危ない。確実に仕留めるぞ」

「了解。準備は出来てる」


 TASさんは頷くと深呼吸をした

「よし、では行くぞ。三、二、一、行け!」

 TASさんのかけ声と共に通路を一気に駆け抜ける。少しと間をおかず、幅が広くなったのを感じた。


「キィィィィィ!」

金属音のような耳障りな雄叫びがあたりに響く。

 露払いはTASさんがあらかたやってくれただろうが、仕留め損なったのがいるかもしれない。


「キィィィィィアアアア!」

刹那、至近に気配を感じる。右後ろか!

 そちら目がけて思いきり剣を振る。


「キアアアアア!」

鈍い感触と金切り声から、拙い斬撃が命中したことをさとる。そのまま手を緩めずに斬りつける。しばらく斬り続けていると徐々に相手の位置が下がってきた。



「やはり動物ベースの魔物はやりにくいか」

地面に落っこちたガーゴイルに止めを刺していると残りを片付けたTASさんが話しかけてきた。

「わかります? 森で出た奴は植物型だったので野菜や果物斬ってるような感覚だったんだけど、血の出るものを現実で斬った経験がなくて……」

「VRでやったことは無いのか?」

「あるけどこんな生々しい感触してない。フルダイブ型じゃ無いんだから……」

そんなもの現状SF世界の代物だ。そこまで行くには従来のものとはまったく別分野の技術が必要になってくるだろう。特に脳科学方面の。


「まあ、徐々に慣れていくといい。適応力が高いようだしなんとかなるだろう」


 適当な…… まあ適応力が高いのは否定しない。

 オンラインで開発者が無双していようが、猫を銃口に取り付けようが、プレイが出来ないまま運営が夜逃げしようが、「ここはロスサントスよ」ならぬ「これはイロモノゲーよ」とばかりに適応しなくてはならない。さもないと詰む。最悪病む。


「さあ、行くぞたけち。まだまだ先は長い」

「わかってますよ」


 ここはまだ適応しやすい。少なくとも今何が起きているかの把握、そして至近の未来に何が起こりうるかの予測が容易だ。

 この予測を良い意味で裏切ったゲームは良作と称され、悪い意味で裏切ったものが駄作と蔑まれる。

 この世界が前者か後者か。まだわからない。



 あれから幾つか溜まり場を潰し、大分深いところまでやってきた。そして見えたのはやっぱり溜まり場。

「この広場だ。人間の気配を感じる」

「わかるのか」

「ああ、微かに声が聞こえる。十人前後はいるだろう。これくらいなら人間でも特殊な訓練を受ければできる。実際、現実の諜報機関でもそのような訓練をしてると聞いた」

 なるほどね……そういえばそんなキャラが出てくるマンガがあったな。



「おい……思った以上にマズいことになってるぞ」

「どうした」

「生け贄の儀の真っ最中だ」

「マジかよ」

 おそるおそる覗いてみると、環状に立てられたポールに子供達が縛り付けられ、周囲をガーゴイル達が規則的に歩き回っている。見るからにヤバそうだ。とあるゲームで、霧の中でポールに縛り付けられて食されたのを思い出す。


「私はガーゴイルを殲滅する。たけちは子供達の救助を」

「わかった」

「奴らに乱数の裁きを!」

「乱数の裁きを!」

 TASさんが突っ込んだのに続いて、俺も子供達目がけて駆け込んだ。一人ずつ、ロープを斬ってガーゴイルのいない中央部へ運ぶ。だがそこまでやる必要はなかった。

 俺が三人目を運ぼうとした頃には、全てが片付いていた。


「みんな、もう大丈夫だ。遅くなって済まなかったな」

 TASさんが子供達に優しく語りかける。こういう所だけ切り抜けば模範的な勇者なんだけどな……


「もしかして、お姉さんって勇者様なの?」

安堵で崩れ落ちたり泣き出したりする子供もいる中、比較的年長と見える女の子がTASさんに尋ねた。

「勇者様に決まってるって! だってこんな金ぴかでかっこいい鎧見たことないもん」

同じくらいの年頃の男の子が言った。

 君達のような勘の良いガキは嫌いでもないよ。てか子供は好きだよ。無論下心無しにね。感づかれて困ることもないし。


「ご名答。この人こそ世界を救う予定の勇者様にてございます。彼女の旅路に大きな祝福を」


「うわあ! 勇者様だ!」

「凄い! 本物だ!」

「爺ちゃんが言ってたとおりだ! 困ったら勇者様が助けてくれるって!」


 今の今までどんよりしていたはずの子供達は蜂の巣をつついたような大騒ぎを始めた。すげえな、勇者パワー。この元気が続いている内に村まで送り届けるか。



 村に着いたのは夕方になった頃だった。幽閉生活で足腰が弱っている子供もいたが、歩けないほど衰弱している子はいなかったため予定よりスムーズに送り届けられた。

 英雄の凱旋に村はにわかに色めき立ち、お祭り騒ぎとなった。


 一方俺は、そんな住民達の感謝感激の嵐をほぼ全部TASさんに押しつけて、タダにして貰った宿屋でくつろいでいた。


「あ、そういやスク〇ズの編集どうしよう。仕事の方は受けてないから大丈夫だけど……」

三日ぶりのベッドの上で、ふと元の世界での事を考える。

 帰ったら久々にいつものメンツで遊ぼうかな……リアル中世分を補給しないと。街道なら野盗に襲われない中世とか温い。せめてタム〇エル位の治安じゃ無いと……


 そういや心配されてるのかな。ユーメルちゃんとか心配してくれそうだよな。

 サイジさんは……うん。はっきり言って「パンとパンツは暖かいうちに食え!」が座右の銘の人に心配されたくはない。そういうのさえなきゃいい人なんだけどね。うん。


 そんなことをとりとめもなく考えていたら、いつの間にやら睡魔に呑まれてしまっていた。

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その勇者TASにつき取扱い注意~TASさんと行く異世界魔王討伐~ 竹槍 @takeyari

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