第3話 乱数の加護ってなんだよ
「ここがマガの森か……いかにも序盤の森って感じだな」
王都からほど近く、俺達はこのマガの森にいる。メインストーリーの最初の中継地点となるのがマガの森の中にあるマガ村なのだ。
「序盤のレベル上げにはもってこいだな」
「そういやこんな王都の近くに魔物が出るのか」
「うむ。魔王に関係なく自然発生するものもいるらしい。こういう人の手が入っていない場所では発生しやすいとかなんとかそういう設定になっているそうだ」
「へぇー」
他愛ない話をしていると、背後でガサガサッという音がした。
「キシャアア!」
叫び声と共に現れたのはいかにも森に出てきそうな木の魔物だった。例えるなら某カー〇ィーの一面ボスみたいな見た目。鼻を短くして動き回るようにすればそっくりだ。あと木の種類を変えるのも忘れずに。
刹那TASさんが駆け出し、魔物をすり抜けて敵の背後に回った。
あのさあ。物理法則くらい守りなさい。そんなんだから即バレするんだよ。
「ほら、お前がとどめを刺せ。レベルが上がらんぞ」
いつの間にか瀕死になってぶっ倒れた魔物の向こうでTASさんが呼びかけてくる。
まったく、少し目を離したらこれだよ。
「どうだ。レベルは上がったか?」
「わからん」
ため息をつきながら魔物に剣を突き立てた俺に尋ねてくる。
「わからないならおそらく上がっていないだろう。いやーしかし、爽快だな。環境破壊は気持ちZOY! とはよく言ったものだ」
「おい馬鹿止めろ」
ピンクの悪魔さんコイツです。真っ黒なネタの宝庫と化した子供向けアニメ(大嘘)の話は止めるんだ。
「まあ冗談はさておいてだ」
「まったく冗談に聞こえなかったんですが」
「この辺にぃ、(経験値が)旨い魔物がいるらしいんすよ」
「じゃけん今から狩りましょうねってか。〇夢語録ならいいと思うなよ」
むしろ元ネタ考えるとこっちの方がアウトだ。ってか淫〇語録を使う幼女なんて精神衛生に悪すぎる。
「悪いな。動画に『例のアレ』タグをつけるために必要なんだと言われてな」
「タグ濫用は止めましょうね」
「冗談に決まっているだろう。それにプレイヤーと私の人格は別物だから私に言ってもしょうがないぞ」
「で、なんだっけ。タ〇ンネがいるって話だっけ」
「タブ〇ネって……他にもっと良い例えはなかったのか? まあいい。そいつはファットナッツっていう木の実の……いたぞ! あいつだ! 生きて帰すな!」
TASさん指さす先にはその名の通り大きくて丸っこい木の実の魔物がいた。あちらもこっちに気づいたか慌てて逃げ出したが、それしきで諦める我々ではない。
「逃げるのは皆悪いファットナッツだ! 逃げねえのはよく訓練された悪いファットナッツだ!」
「本当にレベル上げは地獄だぜ! ヒャッハー!」
自分から振っておいてなんだが、フルメタルジャ〇ット知ってたのか。ゲーム以外には結構疎そうな気もしたがそうでも無いらしい。
ほどなく追いついて二人で切り刻む。
「おお! なんか体が少し軽くなった気がする!」
「うむ。おそらくレベルアップしたのだろう。さあ! この調子で狩り続けるぞ!」
「イエス! マム!」
「ファットナッツだ!! ファットナッツだろう!? なあファットナッツだろうお前」
「経験値おいてけ!! なあ!!!」
こんな感じのことを繰り返してるとレベルが十くらいまで上がった。TASさんが調整してナッツを集中的に出してくれたので手早くいった方だと思う。彼女曰く、この位あれば十分足りるそうだ。
「あまりレベル上げをしすぎても面白くないしな。程々にしておくのがいいだろう」
「息を吐くようにゲームバランスを崩している人が言っても説得力がねえなあ」
「そう言われても私は人じゃないからなあ。ほれ、そんなことよりマガ村だ」
前方に開けた明るい場所に建物が建っているのが見えた。よくある森の中の静かな村といった感じだ。なんか凄い人が隠居してそうな感じもする。
村に近づくとそこには人だかりが出来ていた。皆こっちを指さしてざわついている。この世界では勇者というのは露出度が高いものなのだろうか。
「あの、そこのお方、つかぬ事をお伺いしますがもしや勇者様では」
「うむ。いかにも。私は勇者と呼ばれております。こちらは連れの者です。してなにか御用ですかな」
TASさんすげーなー。「自分が勇者だ」なんてよく堂々と言えるよ本当。てか端から見ればただの痛い人だよね。幼女だから許されるのかもしれないけど。
と思ったらなんか揃いも揃って、TASさんに跪いて頭を下げ始めた。ふむ。異世界にもDOGEZAが存在するのか。というか端から見ればロリコンが喜んでるようにしか見えないんだよなー。俺の心が汚れてるせいかなー。
「勇者様! お願いがあります! どうか! 子供達をお助けください!」
「子供が? 詳しく話を聞かせてくれ。構わんだろ。たけち」
「構わんよ。急ぐ旅でもないんだし」
「つまり、村の近くの洞窟にガーゴイルが住み着いて夜な夜な子供達を攫っていっているから、それを助けて欲しいと」
「はい。その通りでございます」
「私は助けてやりたいと思うが、お前の意見はどうだ、たけち」
「断る理由もないですしいいと思うよ」
「本当ですか! ありがとうございます勇者様!」
俺達の答えを聞いて、村人達が神でも拝み出すかのような仕草で俺達にお礼を言い始める。
「そうと決まれば早速行くぞ。誰か洞窟まで案内してくれないか」
「はい。かしこまりました」
なんだろう。こうして見ていると、TASさんが本当に勇者であるかのように見えてくる。いや勇者なんだけどさ。最初は手のかかりそうな奴としか思えなかったけど安心に近いものを感じる。
「ここだね。中になんか嫌な気配を感じる」
「うむ。ガーゴイルは夜行性だから今は巣でお休み中といったところだろう」
もうお互いに臨戦態勢を取っている。案内の村人も帰した。いよいよだ。
「焦る必要はないがなるべく早く済ませろ。この手のクエストはもたもたしすぎるとガーゴイルが子供達を殺し始めるらしいのでな」
「了解。他に注意点は」
「いや、以上だ」
「なあたけち」
「どうした」
ふとTASさんが尋ねてくる。
「何か決め台詞の様なものが欲しいのだが、良い案はないか。私はどうにもそういう方向には疎くてな」
何かと思えばそんなことか。
「うーん……俺、この戦いが終わったら」
「却下だ」
「それじゃあ……そのための右手」
「却下。頼むから真面目にやってくれ」
真面目ねえ。さて、さしてネーミングセンスがあるわけでなしどうしたものか。
「たけち」の名前にしたって、某有名タレントの名を冠したイロモノゲーをもじっただけだし……
「……『乱数の加護のあらんことを』……どうだこれ」
ふっと空から降って湧いたのがこの言葉だった。
「『乱数の加護のあらんことを』……うむ。いいな。しかも乱数シリーズで色々作れそうだ」
すっかり気に入った様子のTASさんに向け芝居がかった調子で言ってみせる。
「そんじゃそろそろ行きますか」
「ああ」
「「乱数の加護のあらんことを」」
示し合わせたようにそう言って互いの腕を打ち合わせる。
決まった。俺達は意気揚々と洞窟に飛び込んだ。
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