2. 玉座

 暗闇を抜けるとそこは城の玉座の間である。静かに主の帰りを待ってひざまずいていたメイドたちの群れの中にアマルガムを放り投げる。

「お前らのメイド長を湯の中に突っ込め!いいな!」

 

「何だ、一緒に入るんじゃないのか」

 どこか非難がましい声の聞こえた方に目を向けると、悪魔らしからぬ白銀の鎧に身を包んだ金髪白皙の美女の姿があった。

「お前も俺に殴られたいのかよ」

 エイジが凄んでみせても彼女はゼーディエックとは違い一切気圧されない。それどころか腰に佩いていた剣にゆっくりと手を当てた。

「丁度私も魔人王陛下にお手合わせ願いたいと…」

 女はアマルガムへ目を向けると、急に言葉を止めた。アマルガムは首から上を真っ赤にして声を震わせる。

「い、一緒に入ります…か?」


「おーやおや、我らが姫君は可愛らしい限りじゃないか。魔人王陛下におかれましてはよもや姫君の誘いを断るような事は」

「断る」

 エイジがすげなく返すと、アマルガムは頭の上まで真っ赤になる。

「…」

 一瞬の沈黙の後、彼女は最早耐えきれないと言わんばかりにメイドたちと共に玉座の間から走り去っていった。


「…いや流石に魔人王とはいえど、今の断り方はないだろう」

「お前は本当に俺に殴られたいようだなぁ、アルジェン」

「その機会はまたにしておこう。それよりアマルガムを慰める言葉の一つでも考えておくべきだ」

 興ざめだと言わんばかりにアルジェンは溜め息を一つ付くと、腰の剣から手を離す。エイジに背を向け、長い金髪を翻して玉座の間を出て行った。


<流石に俺もその断り方は酷いと思うぜ>

 唐突に玉座の間にゼーディエックの声が響き渡る。彼は転移門ゲートの魔法を通じて遠距離に声を飛ばす事ができ、また会話を聞き取る事ができた。

「お前は帰ってきたら本当に殴り倒してやるからな」

<おお怖い怖い。俺はまだ死にたくないのでこれ以上の悪口は止めておこうか。

…グルーゼックが城門を破壊して街を荒らし始めたが、今回はどうする>

「あいつの好きにさせろ。奴隷が取れなくても構わねえ」

<分かった。じゃあ今回は焼け野原だな>

 そう言ったきり、ゼーディエックの声は途絶えた。


 エイジは溜め息を一つ漏らすと、肩を鳴らしながら玉座に腰を下ろした。そうしてアマルガムにどんな言葉をかけて謝るべきかを考え始めた…。

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(第二稿)悪魔どもが愛の果て 汎野 曜 @SummerShower

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