入れば?

紀之介

可愛いでしょ?

─ ピンポーン ─


 小走りで玄関に向かった和伊さんが、急いでドアを開けます。


「おーそーいー」


 廊下に立っていたのは、満面の笑みの笑空さんでした。


「うん、遅れた♡」


 和伊さんはドアを押さえて、体を横に避けます。


「入れば?」


「おっ邪魔 しまーすーー」


----------


「笑空、あーけーてー」


 飲み物やお菓子の容器を載せたお盆で 両手が塞がっていた和伊さんは、中に呼び掛けました。


「あーけーるー」


 開いてもらったドアから、自室に入る和伊さん。


 お盆のをテーブルに置いて、クッションに腰を降ろします。


「それでは、ダベりますか」


 向かい側に座った笑空さんは、お菓子に手を伸ばしました。


「私達って…ここ一月程、毎週同じ事してるねぇ」


「まぁ、お金もないし」


「同じ事の繰り返しって…既視感とか言うんだよね。」


「『前に同じ事したっけ?』ならまだしも、『毎週同じ事してる』を、<既視感>とは言わないでしょ」


「そうなの?」


「─ そもそも<既視感>って言うのは『一度も見た事がないのに、既にどこかで見た事がある様にように感じる事』だし」


「おー インテリ和伊ちゃん!」


「もっと褒めてくれて 良いよ」


「じゃあ、かしこの和伊さん。私達のこう言う状況は、何ていうんですか?」


「…マンネリ。」


----------


「そう言えば、これ貰ったんだよぉ」


 笑空さんが、自分のバックから取り出したものを、テーブルの上に置きます。


「─ 鈴?」


「可愛いでしょ?」


 突然、姿勢を正す笑空さん。


「チリーン」


「な、何?」


「チリーン、チリーン」


「だ、だから…何してるの?!」


「鈴の音の真似」


「…は?」


「チリーン、チリーン、チリーン」


「い、意味不明なんだけど!?」


「─ ほんとに鳴らしたら、五月蝿いって怒るでしょ? 和伊ちゃん」


「鈴を眼の前に置いた人が『チリン、チリン』言ってる方が、よっぽど不気味で迷惑なんだけど。」


「鳴らして良い?」


 和伊さんが頷くや否や、笑空さんの手が、テーブルに伸びます。


 鈴から伸びた紐を指で摘むと、いそいそと 目の高さまで持ち上げました。


「じゃあ♡」


─ チリーン ─


「最初から、そうしなさいよ。」


─ チリーン、チリーン ─


「まあ、良い音色かもね──」


─ チリーン、チリーン、チリーン ─


「…もう良いんじゃないかな?」


─ チリーン、チリーン、チリーン、チリーン ─


「ウルサーイーー!!」


「怒らないっていったのにぃ…和伊ちゃんの嘘付き。」

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入れば? 紀之介 @otnknsk

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