柏座陽奈III
人の一生はよく旅に例えられます。しかし私は、それよりも旅が人の一生の大きな転換点になり得ると考えています。
なぜなら、旅は誰かの新たな一面を知ることが出来るし、何か大きなことに挑戦出来ると思うからです。ほら、よく言うじゃないですか、旅の恥は掻き捨てって……意味が多少違っているのかもしれませんが。
まあとにかく、そこで今回の校外取材では、旅に乗じて小敷谷君と今泉さんをくっつけようと私は計画しました。
そして校外取材が終わろうとする今、私が背中を押した彼は、今泉さんに追いつこうと山を駆け登っています。正直、今までのヘタレさを思い返せば、これは大きな成長のように思えます。
そんな彼の姿は私にとって喜ばしいことのはずです。嬉しいことのはずです。祝福すべきことのはずです。
それなのに……
遠くなる彼の背中を見て、私は少しだけ寂しく感じてしまいます。
しかも、なぜか一粒二粒と涙が流れてきます。
——止まれ、止まれ止まれ……
そう念じれば念じるほど、涙は止まらなくなります。
別に悲しくなんて無いはずなのに。彼とは出会ってから一カ月もたってないのに。ただの部活仲間ほはずなのに……
どうして彼の事しか考えられないのでしょうか。
どうして彼に心を動かされてしまうのでしょうか。
今日の私は本当におかしいです。
自分が自分じゃないみたいです。
これじゃあまるで私は……
ああ……
私はここまで来てやっと気が付きました。
私が何かを変えようとしてきたこの期間は、確かに何かを変えることが出来ました。しかしそれは、変えた何か以上に私を大きく変えてしまったのです。
それは確かな実感を持って今私に襲いかかって来ます。
——そうか、そういう事だったのですか。
さっきよりも目尻が熱くなるのを感じます。
目の前の景色がボヤけて映ります。
夕陽が熱く私を包み込みます。
そして、私にこう思わせます。
私はもう、第三者の観客ではなく一人の立派な当事者なのだと。
全てが終わった時。それが私のスタートでした。
【了】
この想いをいつか君に伝える ミツワ @mitsuwa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます