勇気#4


 叫び声を発するボクの身体を包み込んでいた柔らかい質感が、蠕動するように不気味に動いてからゼラチンのように固まった感覚に変わると、スライムの身体が、まるで巨大なサイコロみたいな形状へと、変化を遂げていた。え、何これ。


 そして、たまらず浮き出てきたように見える、ちょっと赤みがかったバレーボールくらいの球体が、その立方体のゼリーの中でボクと対峙する。刹那、


「!!」


 上に放り投げていた鎖鎌が落下してきて、その三日月状の刃が、「球体」を真っ二つに割ったのであった。この間、数秒の出来事(だったらしい)。


<ああーっとぉ!! コアをっ、破壊!! まさかのKOぉぉぉ、だッ!! ……ウガイさん、この戦術は……?>


<……『音波魔法』とでも呼びましょうか……、いにしえの呪法にそのような記述があった……ような。自ら敵の内部に入り込み、そこから防御不能の音波振動撃を与え、落下重力も加えた投擲武器の時間差攻撃で仕留める……これは勇気も勿論ですが、緻密な計算も必要な、正に『勇者』の戦法……っ! 我々はいま、新たなるヒーローの誕生を目の当たりにし>


<ともかく凄い評価だッ、リント選手っ!! 『10,295ボルテジック』!! ……五桁は初めて見たぞッ、圧勝だぁぁぁっ!!>


 硬直して脆くなったゼラチン質の立方体の中から、何とか泳ぎ掻き分け這い出してきたボクを待っていたのは、何万人かくらいが巻き起こす、歓声の渦だったわけで。


 何かが、変わり始めている。アンラッキーの申し子たるボクが、今まで貯めていた幸運の死蔵金を一挙に引き出しつつあるのか、それは分からないけど。


 そしてもうひとつ。あまり出ていない喉仏あたりに、ボクはそっと手をやってみる。


「声」……にも何かが起こりつつあるのでしょうか。


 そんなこんなで初戦を何とか勝ち抜いたボクだったけど、その後もやはり幸運神のご加護を受けているとしか思えない試合が続いたわけで。


 次のスケルトン戦では、またも襲われる恐怖に反応して飛び出た「叫び声」が、敵の骨格の「繋ぎ部分」らしきところの魔力的接着をバラして、あっさりとKO勝利した。


 そしてその後も、オークや、ミニドラゴンや、アーマーナイトでさえ、ボクの放つ謎の「音波」攻撃にあらがう術を持っていないという、無双状態にあって常に敵を屠るというスタイルで、次々と勝ち進んでいくのであった。


 うん、まあおよそ「勇者」の立ち振る舞いでは無いけどね! でも、この世界の人たちには、それが新鮮に映るらしい。


 自ら望んで窮地を呼び込み(あくまで不可抗力なんだけど)、それを緻密に練られた(完全に偶然)策で打ち破る。それを「勇気」と評していただけているようで。しかしそれがいつ破綻するかは分からないわけで。


 次は決勝だ。何でも最後は途轍もないクラスの魔物を召喚するとか言ってた。今度こそヤバそうな雰囲気を感じ取ったボクは、丸男に棄権の意をほのめかしてみるものの、聞く耳持たなかった。


 そしてどうもこの男にだけはボクの本質的なものが見抜かれているらしく、逆らったら例の店に売り飛ばされそうな恐怖を、その目の座ったでかい凶悪な面に感じ取ってしまい、それ以上は何も言えなくなるわけで。


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