勇気#5


 意を決し、ひきつった顔のまま、決勝の舞台に立つ。


 なかば強制、みたいな感じだったけど、実はボク自身、高揚でテンションがどうにかなっちゃってる部分もあった。


 今までの人生を振り返ってみてもロクなことが無かったボクが、このどこかは分からない世界なんだけど、大勢のヒトたちの声援を受け、熱狂を与えることが出来ている……世界の中心に自分がいる感覚、いや、意味不明かもだけど、もっと言うと、自分の中心に自分がいる感覚。


 どうせ失うものもたかが知れてるし。だったらここ一番で燃焼してやるっ、と、はからずもその一発屋的メンタリティは、この世界で言うところの「勇気」なるものに、なぜか似ていたり、直結していたりもするわけで。


 周りに目をやって、他の面子をちらと見てみる。三人が三人とも、いろとりどりの髪をおっ立てたり、揺らせたりしている、細面のイケメンたちだった。装飾を盛れるだけ盛った鎧に身を固めていたり、ばかでかい宝石が嵌まった剣を携えたりして、うおおおお、と熱血な感じで気合いをいれていたり、余裕でフッとか鼻で笑っていたりするけど。


 ……「勇者」像がかなり古いというか、それでも残るのはこういった人たちなのか。


 自分がその「時流」に乗れてない感にいささかの不安を感じつつも、ボクは自分の相棒、薄汚れた鎖鎌を、身に着けたザ・平民服といった感じの上着の裾で少し擦ってみたりしている。


<最終決勝がっ!! 正にいま、始まろうとしています!!>


 実況の人のよく通る声が、狂騒の中、響き渡っていく。これ自体が壮大な夢の中での出来事である、という儚い思いもいまだ引きずり続けている僕は、どうせやるならやってやれぇい的な考えに至っている。


 しかして。そんな細い決意は次の瞬間、あっけなく、ぽきり折られるわけであって。


 フィールドには、何人もの術士っぽいヒトたちが、先ほどから巨大な円形の紋様を素早く、そして精密に描いていたんだけど、描き終わりと同時くらいに、そこからコロッセオの吹き抜けの上空に向けて、青と黄色が混ざり合ったような色の光がぶち上がった。そして、


「……」


 光が収まったところには、禍々しさが寄り集まって混沌を為しているかのような、何体かの化物の集合体のようなモンスターが鎮座していたわけで。


 肉食草食問わずの獣っぽい外観のものから、軟体質のイカみたいなやつ、巨人の顔だけみたいなものが、ごてごてと積み重なっていて、モンスターの身体を無秩序に繋げましたよといった感じのフォルムだ。ひと目カオスな感じの不気味さとヤバさが同居している。


 これ呼び出したらあかんやつじゃね? との思いが、周りの焦燥を見るにつけ、ボクの中で確信の色を帯びていく。いや帯びとる場合ではないけれど。すると、


「ココココ……わらわを呼び出すとは、愚かなる者どもよ」


 いきなりその化物から若い女性の声が飛び出した。テンプレ気味ではあったけど、見た目にそぐわない美しい声だ……よく見ると怪物の中央部には、様々な肉に挟まれるようにして、ひとりの女性と思われる人の、肩から上が突き出しているのがわかった。


 金色の長い髪はそれ自体が光を発しているかのように輝いていて、妖しさと美しさの同居した紅い目は、見ていると引き込まれそうだ。抜ける白い肌は清らかでなめらかそうで……いや、駄目だ駄目だ、あっさりとその魔力的なものに引っかけ上げられようとしかけていた自分を慌てて押し留める。


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