勇気#2
「リントぉっ、まったくお前さんってやつは大した男だぜぇぁ!!」
そんな鏡面のように凪いだメンタルのボクに、往年のハリウッドばりの上っ面だけを撫でるようなセリフ感満載の言葉をかけてきたのは、ひと目オークとかと間違いそうになる外観の、でっぷりと太ったおっさんだった。今はセコンドとして試合前の僕の汗を拭いたり、どぎつい色の液体を飲めと手渡してきたりするけど。
「この世界」に到来して右往左往していたボクに、服やら食事やら何やかんや世話を焼いてくれたヒトではあり、それは感謝してもいいかなと思いつつも、やはりコトはそう単純では無かったのであり。
よく回る口車にあらよと乗せられ、気付いたらこの「最大勇者祭り」とやらに参加させられていた。優勝者には莫大な富と栄誉が与えられるとか言うけど、何でこのボクが。
頭と腹に響くほどの歓声は、野球場のような、いやもっと的確に言うと「コロッセオ」のような円形をした、かなりの大きさの「場」の四方八方に反響している。そんな中、
「ぐへへへ、あと一つ勝てば、お前さんと俺っちは晴れての超絶大金持ちよぉ、ぐぇっへっへっへ」
よくそんなテンプレ感溢れるセリフ調で喋れるな、と思いつつ、なぜ言葉がすんなり通じるのか、そんな疑問はいまだにある。
ま、異世界に転移するくらいだ、言語野の書き換えくらいすんなり起こるものなのだろう。でもそれ以外はゲーマー帰宅部高校生のままの身体能力だし、特殊な能力を授かったという自覚もない。
何ならむしろ運動野とか、特殊能力野(あるのかは不明)をいじくってよ、とここに来てから何度も思ったけど、それはもう諦めているわけで。
「コロッセオ」と、もう便宜上そう呼ぶけど、円形の石造りの闘技場の盛り上がり方はものすごい。人が、あ、まあヒトならざる者っぽいのも結構いるな……が、ぐるりを巡るスタンドを埋め尽くしている。そして怒号のような狂乱の叫び。大の大人がぐるりを巡り、暴動もかくやなテンションを眼前で見せつけられると、かなり怖いし、引く。
トラックの無い、サッカー専用の競技場、スタジアムくらいの作りと広さかな。そのグラウンドに位置する所には黄土色っぽい土が一面に撞き固められている。さっきから何度もそこに降りて戦ってはいるけれど、結構、砂ぼこりは舞うので目や喉にくることこの上ない。
「リントちゃんよぉ~、お前さんの『ニューウェーブ』な『勇気力』。俺っちはほとほと感心してるんだぜぇあ~。正に異次元。俺ら凡夫たぁ、住む世界が違うっつーか」
この丸い男は、ほんとに口調が定まらないな! 揉み手気味でボクを調子よくおだててくるけど、まあ、元から住む世界は違うからねぇ。
「トモヒト」と名乗ったものの、「……トゥトトゥ、とぅぅぅむ? ふふふぃぃぃと?」みたいに発音しづらかったのか、ボクの持ち物を勝ってに探って「結城 倫人」の名前を見つけると、
「おおー、『リント』!! こっちの方が呼びやすいなぁ、よぉぉぉし……今日からお前は『リント』だよ……ッ!!」
よく分からない口調でそう告げて来た。誰だよ。そしてなぜ漢字が読める。
こうして「ユウキ リント」という、ギリギリを攻める名前に落ち着いたボクは、その名前でこの「大会」らしきものにエントリーされていたわけで。
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