最終話 午前2時、夢の終わり
目覚めたボクは、母さんの手紙があるリビングへ向かう。
最後の手紙を読むために。
この夢をきちんと終わらせて、家族と幸せな現実を歩むために。
折りたたまれた手紙に書かれた、母さんの最後に書かれた綺麗な字を見る。
「嘘」
漢字で書かれたその字を見た瞬間、世界が一瞬だけ暗転する。
そして、夢から醒める。
※※※
広がる血の海はすでに乾いて、黒く変色していた。その中心に横たわる三つの腐った死体。父さんと、おばあちゃんと、あきちゃん。
一箇所に集められた死体の腐臭は凄まじく、思わず顔をしかめてしまうけど、どうせ慣れてしまうので我慢する。
ボクが三人を殺したのは、母さんが死んですぐだった。
母さんの葬儀や死体の埋葬などの細かい手続きが終わってひと段落した後、ふと、自分の本当の家族を探したくなった。
まず、自分の出自を調べた。
ボクの父親はボクが生まれる前、猟奇殺人を犯し、全国指名手配となっている狂者だった。名前は、天沢満。記憶の中に現れた、血みどろの男だ。
母さんはその殺人鬼の異常性に好意を抱いた。
そうして出来上がったのが、ボク。
母さんの家はなんだか怪しい一族の末裔で、代々女性は不思議な力を持って生まれるとされていた。
母さんの生まれ持った力は「洗脳」。
ボクの力は「潜脳」。
人の記憶を覗き込み、勝手に操作することができる力。
まぁそんなのはどうでもいい。母さんはその力で、天沢満を洗脳して自身と交わらせ、子供をつくる。そうして出来上がった自分の子供をまた洗脳して、父親と同じ殺人鬼へと作り上げる計画を立てた。
最後の仕上げが、自身の死によるボクの不安定な状態で行う「家族殺し」。
手紙と一緒に入っていたのは鍵なんかではなく包丁で、ボクはそれを鍵だと思い込み、眠っている家族たちを次々と刺していった。
そうして手紙の文字を見たことで洗脳から覚め、自身の凶行を目の当たりにしたボクは、
「もういっかい」
と、凶行を自身の力によって繰り返し、繰り返し、繰り返し。
ついに、三ヶ月も経ってしまった。
「あぁ……たのし、かった……。もう、いっかいーーー」
「鏡花、待ちなさい。ご飯を食べてからにしなさい。疲れただろう」
後ろから男の人の声がする。
振り返った先にいたのは、夢に出てきた血みどろの男、天沢満。ボクの本当の家族。
その手には皿が乗っており、似合わないエプロンには返り血が飛び散っていた。
「やだよ。お父さんの作る料理、人肉料理ばかりじゃないか。人肉、美味しくない」
「好き嫌いしてはいけないよ。まぁ、確かに癖はあるけど、そこが美味しいんじゃあないか。お前と同じくらいの子で、一夜で大人二人分を平らげる子を、私は知っているよ」
「そらくんでしょ?あの子はだって、天童の一族じゃないか。ボク達と同じ変人だよ」
普通の親子のような温かな会話をしながら、ボク達は食事を始める。
ボクの欲しかった家族は、ここにいる。
あんな偽物達は、初めからいらなかったんだ。
愛してくれて、ありがとう。
でも、いらない。
次は誰を殺そうか。
そんなことを笑いながら話し、午前2時はあっという間に過ぎていく。
この世界のどこかにいる、母さんのような伴侶を探して、ボクは今日も人を殺す。
まぁもしかしたら、気づかず殺しているかもしれないけれど。
おもいかぎ 永崎カナエ @snow-0
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