異世界救済RTA放課後ルート3:55:25(参考記録)

白銀天城

異世界救済RTA放課後ルート3:55:25(参考記録)

『異世界救済RTA放課後ルート、はーじまーるよー』


 気の抜けた女神プリムの声を合図に校門を抜けると、そこはもう異世界。

 これから異世界を救って、女神の待つ食卓へと帰らなければならない。


『今回は剣と魔法のファンタジー世界です。いつものように四時間でクリアしましょう。イクゾー! デッデッデデデデ』


 カーン!! と鐘の音が鳴り響いたらスタートだ。


『西に行くと魔王四天王の二番目くらいのやつがいるよ』


 女神からのバイト募集、四時間で異世界救ったら五百万。

 飛びついてしまった。それが俺の放課後を決定づけた。

 学生である俺の唯一の取り柄は、何十個もの異世界を救った勇者であるということのみ。


「四天王から行く!」


 悪しき気配を察知して、音速の五百倍でダッシュ。

 周囲に被害を与えないように、衝撃カットの魔法を忘れない。

 悪人の住居以外を壊すとバイト代から差し引かれるのだ。


「おじゃましまーす」


 VRMMO世界で身につけた隠密スキルで、真っ黒な城に潜入。


『はい三分経ちました』


 通信魔法で俺の脳内に声が届く。

 女神だけが入ることを許される女神次元より、こちらをモニターしているのだ。


「いかん。ちょっと慎重に行き過ぎたか」


『今日はバイト代が残るかな?』


「やかましい。絶対に五百万は諦めんぞ。勇者は諦めない!」


 四時間を超えると十分につき十万円バイト代が引かれます。

 ゼロになると救うまでタダ働き。


「ズデガズベヴァギャグル様。勇者一行は四天王である、エビゾンビ子爵の元へ行ったそうです」


「報告ご苦労、清次郎」


 お前ら名前どうなってんだよ。

 玉座っぽい椅子に座る真っ黒な鬼。あれが四天王だな。

 部下も鬼っぽいし、そういう種族なんだろう。


「ふん、余の元へ現れる前に死んでくれるなよ勇者。四天王が生きている限り、魔王城の結界は解かれんぞ」


「そいつはいいことを聞いたな」


「何奴!!」


「勇者だよ。悪いがお前らの野望もここまでだ」


 よし、勇者っぽいセリフだ。あとは倒すだけ。

 こいつ程度なら軽く殴れば楽勝だろう。


「よかろう。清次郎、準備をしろ。クイズバトルだ!!」


「はあぁ?」


『はい、ここからクイズです』


「なんでだよ! 殴ればいいだろ!」


『クイズ族はクイズでしか倒せません』


「嘘つけ馬鹿野郎!!」


 なんだよクイズ族って。種族名としておかしいだろ。


『そういう特性を持った種族です』


「付き合ってやる義理はない」


 伊達に勇者として世界を救い続けているわけじゃない。

 その世界の法則を破壊して作り変えることくらい容易いのだ。


「ってわけで殴れば死ぬ」


『ノウ! ノウ! 勇者がルール破りとは、堕ちたものですね』


「何が言いたい」


『この世界の勇者はちゃんとクイズで戦うのに。うわあ勇者っぽくないな』


 挑発が凄くうざい。しょうがねえやってやるよチクショウ。


「いいだろう。慈悲の心でクイズ勝負だ」


「では第一問。余の名前を噛まずに答えよ」


「お前それずるいだろ!?」


 ただの早口言葉だろうが。まあさっき聞いたので答えてやる。

 ノベル系異世界でバックログ機能を手に入れた俺の敵ではない。


「ズデガズベヴァギャグルだろ」


「フルネームでお願いします」


「フルネーム!?」


 こいつクソめんどい。ステータス閲覧スキル発動。

 マジで種族名クイズ族だ。アホか。


「ズデガズベヴァギャグル・ザ・ズデガズベヴァギャグル24世」


「本当にそれでよろしいですかな?」


「いいよ早くしろ」


「…………正解は………………」


「長いよ溜めんな! クイズ番組じゃないんだよ!」


「正解!!」


 どこからか壮大なBGMが流れ出す。アホ種族だな。

 もうこの状況の全てがめんどい。そしてクイズは続き。


「では第十五問!」


「ちょっと待てこれ何問ある?」


「余が勝つまで続くぞ」


「やってられるかボケエ!!」


 右ストレートで跡形もなくぶっ飛ばす。

 ついでに清次郎も城ごと破壊魔法で砂の山にしてやる。


「ああもう無駄に時間くった……」


『はいあと三時間です』


 急ごうとする俺の目の前に現れた緑色の短剣。

 なにやら神聖な魔力を帯びている。


「レアアイテムっぽいな。プリム、解説」


『それは四天王を倒した証です。以上』


「それだけかい」


『攻略のアドバイスは有料です』


「いらねえ」


 四天王を倒せば出るってことは、これと似た魔力を探せばいいんだろ。

 魔力を解析。同時に世界全域に探索魔法をかける。

 ジャスト五分で完了。似た力を持つ敵の元へ光速移動。


「うっし見つけた。似たような城だ。いざ鎌倉!」


 今度の城は海に浮かぶ金色のアラビアン風。どんな趣味だ。

 しかも純金を魔法で強化してんなこれ。


「成金趣味は理解できん」


 やがて謁見の間に到着。中には男が二人。女が一人。

 一番奥に佇むド派手な貴族の男がエビゾンビ子爵だろう。

 腐ったエビみたいな臭いするし。二足歩行のエビだし。


「期待外れだな勇者一行。まさかこれほど弱いなんて」


「く……まさかエビゾンビ伯爵がここまで強いなんて……」


「出世してる!?」


 なんだよエビに何があったんだよ。ちょっと気になるだろ。


「どうした勇者よ。先代エビフライ征夷大将軍を破った男の息子とは思えんな」


「お前の家系どうなってんだよ!?」


「何奴!!」


 はいばれました。だってもうこいつ意味わかんないもん。

 そりゃ突っ込むわ。仕方ないよ。


「勇者二号。一号のピンチに駆けつけたぜ」


 この世界の勇者に一号の座を譲ろう。

 ずっとこの世界で暮らす訳にはいかないし。


「勇者が二匹か……よかろう。ならばいでよ、吾輩の息子達!!」


 天井や窓からわらわらとエビが飛んでくる。

 大小様々で、ブラックタイガーとか伊勢海老もいるな。


「エーッビッビッビッビ! どうだ辛かろう!」


「そんな笑い方してなかっただろうが!」


「くっ、増援とは卑怯だぜ! エビゾンビ!」


「最初から三人がかりの貴様らが何を言う!」


「ド正論だな」


 勇者はボス戦だと多対一の状況が多いね。

 なんかあるんだろう。敵の優しさとか。


「まだ終わらんぞ! さあ、この定価10ドルの所を2ドルで購入できた強化洗脳リングで、息子を大きくしてやる!」


「微妙にシモネタくさいぞ」


 っていうかこの世界の貨幣ドルかよ。ファンタジー感なくなるだろ。

 エビが全員二メートルくらいの大きさになった。食うには量が多いな。


「くっ、こっちはミリムを蘇生させながら戦わないといけないってのに!」


 死にかけの女はミリムというらしい。


「君も勇者なんだろう? オレ達に協力してくれ!」


「よし、じゃあ共闘するか」


「ふっ、その女は回復しても助からんぞ。既に魂があの世に行っている。体を修復しただけでは蘇生はできん!」


「えーじゃあリターントウ……ええっとスピリット!」


 適当にアドリブで蘇生魔法を作成。

 イタコとかがやる口寄せっぽいもんで魂を戻す。


「ここは……私どうして……」


「なにいいいぃぃぃぃ!?」


「あんたすげえな!?」


「勇者だからな」


 無事目を覚ます女。次はエビを倒そう。すぐ倒そう。今すぐに。


「気をつけろ勇者二号。あいつはただのエビじゃない。悪魔子爵がエビと合体したんだ。腐っているのは、エビ特有の毒が強すぎるからさ。しっぽの毒でミリムはやられた」


「エビに毒とかねえよ!!」


 エビの尻尾は雑菌がたまるだけだ。それを毒とは、エビのくせに生意気な。


「そうさ! 我輩は毒とエビの力で強くなる! エビはいい甲殻類なんだよ!」


「でも体の腐食が止まらないんだろ?」


「そうさ! 甲殻類のクズが!」


「言ってること無茶苦茶だな!?」


 エビにまともな会話を期待してはいけないんだろう。

 さっさと倒そう。こっちは四時間で世界を救わなきゃいけないんだよ。


「こいつはやっかいでヤンスよ勇者様」


「まさかのヤンスキャラかお前」


 屈強な男戦士さんはヤンスキャラみたいです。だからなんだ。


「なぜ合体することになったか……みなさまのためにぃ~…………冥土の土産に聞かせてやろう」


「いらん」


 時間がないんだって。頼むから巻きでお願いします。


『ここは……聞くしか無いな?』


「いらんわ!」


『なんで? なんで? なんで?』


「どうせ倒すからだよ」


「すまない二号。どうやってあいつがエビと合体したのか……オレは知りたい」


「私も気になるわ」


 勇者一行が興味を持ち始めた。

 いやお前らは時間がたっぷりあるからいいだろうけどさ。


「あんまり時間無いんだよなあ……」


「そう言わずに聞いていけ。まず吾輩が一匹のエビとして生まれてから……」


 いいだろう。ならオートスキップ機能を魔法に作り変えて、エビに流してやる。

 三倍速の超早口で何か喋っているが、そんなん知らん。

 RTAで悠長に会話なんぞ聞いていられるか。


「と、いうわけだ。わかったか? 最初から説明しようか?」


「はいはい」


「よかろう。では最初から……」


『おおっとここで勇者、まさかの選択肢をガバる』


「あああぁぁぁ!! ちょっと待てもう聞いたわ!! 今のはいはいはそういう意味じゃないから!!」


 ガバったので十倍速です。


「というわけだったのさ! もう一度聞くかい?」


「いらん!」


「エビの生態について勉強になったぜ」


「もういやこの世界……いいからエビ倒そうぜ」


 さっきから全エビが空中で高速で回転している。凄く意味がわからなくてうざい。


「ふっ、もう終わりだ小僧ども! エビの回転は陰と陽。光と影。有限と無限。破壊と再生。全ての表裏と輪廻を意味している。この意味がわかるか!」


「わかるかボケエ!!」


「つまり、エビたちが高速で回転し続けると……この部屋は宇宙になる!」


 一瞬で室内が広大な宇宙へと変わる。


「一切納得できんが、やるじゃないか」


「どうだ人間! 貴様らに宇宙空間はきつかろう! お前の体は宇宙無理!」


「いや別に」


「なにゆえ!?」


 勇者が宇宙で活動できなくてどうする。

 それじゃあ宇宙戦艦で戦う世界の船とかロボットや怪獣を殴れないだろ。

 そんな弱点は解消しておくに越したことはない。


「当然の権利のように宇宙で活動するのはやめろ。それに勇者一号はどうかな?」


「うっ……ぐぐ……」


「苦しいでヤンス……」


 苦しんでいる勇者様一同。宇宙駄目なタイプか。

 全身に貼り付けるように魔法結界をかけてやる。


「ええいもう……これでなんとかなるだろ」


「はっ……はあ……助かったわ」


「サンキュー二号!」


「だが甘いな勇者よ。究極エビ合体は既に完了した」


 全てのエビが融合し、百メートルクラスの巨大エビ伯爵が誕生していた。


「吾輩はエビの力により、既に破壊と創造を司る神だ。今なら宇宙すらも意のままに作り変えられる」


「お前もう魔王より強いだろ」


「それでもオレたちは勝たなきゃいけないんだ!」


「やれるものならやってみるがいい!」


「んじゃ遠慮なく」


 右ストレートで跡形もなく消し飛ばす。戦闘で終わる相手は楽でいいやね。

 赤い短剣も出てくる。よしよし順調なはず。

 破壊と創造なら俺にもできるので、部屋を元に戻した。


「ええええぇぇぇぇ!? 今のはなんでヤンスか!?」


「なんてパワーだ……君なら四天王最強のああああ大元帥すら倒せるかもしれない」


「ああああ!? 名前考えろや! それ絶対後悔するやつだぞ!」


「これで残る四天王はズベなんとかとああああだけでヤンスね」


「クイズ野郎は潰しておいた。あとは元帥だけだな」


 ここまでのロスが大きい。出来る限り急ごう。


「あと何分だ?」


『あとニ時間きっかりだね』


「厳しいな。だがここからノーミスなら問題ない気がするので続行だ。再走はしない」


『ガバれ』


「うっせえ! 絶対五百万貰ってやるわボケ!!」


 あとは四天王と魔王城にいる大魔王のみ。

 バイト代の五百万を貰うまで、俺は絶対に諦めない!!


「ここでオリチャー発動!」


 異世界を四時間以内に救うため、急遽勇者一行と行動することにした。

 そして四天王最強らしいああああ大元帥を倒したのだが。


「剣が出ない?」


「剣が四本揃わなければ、光の剣は完成しないんだぞ!」


「そうだ。これで魔王城の結界を傷つけることはできぬ」


 死にかけなのに満足そうな大元帥。お髭の魔法使いじいさんだったよ。


「私はチェーンマンの影武者なのだよ。名前も入力速度を考慮して、ああああと付けられる程度の存在だ」


 ちょっとだけ同情してしまった。次はもうちょいいい名前に生まれ変われ。


「そいつからじゃなきゃ剣は出ないってことか」


「左様、そしてチェーンマンは魔王城で引きこもっている」


「きったねえ!?」


 お前ここまで来てそういうことするかね。四天王のくせにせこいぞ。


「クックック……さらばだ!」


 ああああが大爆発し、城が揺れ出した。

 急いで脱出。そっと防御魔法もかけてやったので、全員無傷で脱出完了。


『はいあと一時間半です』


「こうなりゃ魔王城に乗り込むぞ」


「結界はどうするのよ?」


「最悪俺が殴って壊す」


 一応世界のルールに従ってやっているだけで、やろうと思えば壊せるはず。

 俺が手こずるというのは、最低でも無量大数を超えているレベルになる。


「大元帥だって、オレの剣じゃ歯が立たなかったんだぞ」


「んなもん強くなればいいさ」


「じゃあ半年くらい修行して」


「長い長い長い。一気に強いやつ倒してレベル上げるすぞ。さっきの戦いでレベル上がったろ?」


 都合がいいことにレベル制の異世界だ。パワーレベリングしちまおう。


「だが今のオレじゃあレベル不足で……やっぱり狩りとかして、もっとスキルとか能力を……」


「ええいもう! じゃあ俺が加護とかスキル貸すわ!」


 女神から貰う加護を、俺が少しの間だけ貸してやればいい。

 こっちは何十回も異世界を救っている。それくらい可能だ。


「とりあえず五感剥奪と能力無効化と因果律操作と第四の壁認識と不老不死の力を貸してやるから五分で使い方覚えろ!」


「いくら勇者でも、一度にそんな大量には無理でヤンス!」


「勇者ならできる! 勇者って魔王軍から恨まれてるだろ? 相手に悪印象持っただけで発動する即死の異能とかあるからそれも追加だ。これで魔王軍の大半殺せるから一気にレベル上げろ!」


『もうなりふり構わなくなってますね』


「おう、絶対に五百万貰ってやる」


 悩むそぶりを見せる勇者。

 いきなり出てきた俺が信用出来ないのはわかる。


「よし、じゃあ気持ちを整理したいから、三日くらい猶予を……」


「却下」


 コピーアンドペーストで期限付きの加護をどーんとくれてやる。


「お……おぉぉぉ……うおおおおぉぉぉぉ!!」


 勇者のステータスがどんどん上がっている。よしよし。


「凄い……力が溢れてくる! これならやれそうだ!」


「じゃあ一回宿屋に泊まって……」


「今すぐに行くぞ!!」


 マッハで動けるようになった勇者一行を連れて、一番でかい邪気のある場所へ。

 その道程はトラブルの連続だった。


「毒の沼地だ……よし、どうすればいいか近くの街で対策を……」


「浄化!!」


「川があるわね。よし、橋を作りましょう。まずは材木を集めに遠くの森へ」


「飛行魔法あるだろうが!!」


「この先に温泉街があるでヤンス。一週間くらいのんびりするでヤンスよ」


「魔王倒してからにしろや!!」


 なんでこいつらちょいちょい回りくどいんだよ。

 全部その場で解決してやった。


「もうすぐ魔王城か。やっぱり不安だな。よし、最初の町にいる占い師に、今日の運勢を聞きに行こう」


「お前もうわざとやってるだろ!!」


「ダメよ勇者。占い師に会うには、西にある赤の結晶と、東の秘宝、青の結晶がいるわ」


「クソめんどいなおい」


「わかった。じゃあ結晶がどこにあるのか探す旅に……」


「出るなや!!」


 なんで脱線すんのさ。おつかいが多すぎるわ。いいから魔王倒そうぜマジで。


「行くかどうか花占いで決めるでヤンスよ」


「乙女か!!」


「だが魔王城の近くに花はない。よし、南に花が咲き乱れる国があると聞く。みんなでそこに……」


「行くかボケエ!!」


 いかん勇者一号のこと殴りそうだ。

 おつかいクエストをやめろ。


「もう徹底的に力技で押し通る!」


 やがて草木も生えない瘴気で満ちた地域に出る。

 黒基調で赤の入ったアホほどでかい城発見。


「待たれよ人間。ここは魔王城。だが四天王を倒さねば結界は……」


「オラア!!」


 面倒な手続きは無視。結界を殴って敵ごと破壊する。


「本当に壊したでヤンス……」


『結局剣は使わなかったね』


「俺が殴ったほうが硬いし強い」


 レベル上げて体鍛えたら武器なんていらないのだ。

 いちいち武器を選んでいて勇者なんぞやってられるか。


「このまま行くぞ!」


「ああ、だが敵が襲って来るかもしれない。内部構造もわからないし、一週間くらい地元民に聞き込み調査を……」


「このままっつってんだろ! 地元民は全員魔物なんだよ!!」


 魔王城以外何もないよここ。そんな感じで最奥へ。

 玉座にて待ち受けるのは、サングラスを掛けた男。

 両手には真っ赤な鎖が握られていた。


「よく来たな勇者一行。おれの名はチェーンマン。鎖一族の王だチェイン」


「語尾がうざい」


「血染めの鎖か……オレがそんなもんにビビると思ったら大間違いだぜ」


 勇ましく剣を構える勇者。テンション上がってきたぜ。


「いや血じゃない。もとから赤いんだよ」


「はあ? じゃあなんで赤を選んだ?」


 この世界ちょっとおかしい。正直意味わからんものが多いぞ。


「おれの誕生鎖が赤なんだよ」


「誕生鎖!? なにその誕生花みたいな!」


「赤の鎖言葉って知ってるか?」


「知るかそんなもん!!」


 何を花言葉みたいに言ってるんだこいつ。


「赤の鎖言葉は…………純粋な想いだ」


「綺麗!? 予想に反して綺麗!?」


「ちなみに青の鎖言葉は真っ赤な血潮だ」


「ややこしいわ!!」


 ちゃっちゃと倒そう。やってられるか。まず鍛えた勇者に戦わせてみよう。


「チェーンマン、覚悟!!」


 音速で移動し、横薙ぎに振られた勇者の剣。

 それを高くジャンプしてかわし、すれ違いざまに振り下ろした鎖で逆に勇者を弾き飛ばした。


「ぐあぁ!!」


「よくも勇者を。食らうでヤンス!」


 戦士の放つ火炎剣が、なぜかチェーンマンの体をすり抜ける。


「なぜでヤンス!?」


「ジャンプ攻撃中は無敵なんだよ!」


「ねえんだよ現実に無敵時間とか!!」


「鎖三連撃!」


 正確に、光速に達する速度を伴い最短距離で繰り出される鎖による突き。

 それは戦士と女魔法使いの体を壁までぶっ飛ばす。


「うひいぃぃ!!」


「きゃあぁぁ!」


「やっべ回復!」


 致命傷ではない。レベル上げであいつらの防御力も上がっているようだ。

 面倒だからダメージ食らったら自動回復するようにしておこう。


「小僧、貴様だけおれの鎖に微動だにせんな」


「勇者歴がちょいと長くてね」


 しかしこいつ無駄に強いな。

 普通のRPGで例えるなら、レベル80くらいで攻略サイト見ながら倒すタイプだ。


「久しぶりに楽しめそうだな。勇者二号よ」


 小刻みにぴょんぴょんしているのがうぜえ。硫酸にぶち込むぞ。


「おれも本気を出すぜ!」


 チェーンマンが赤い小瓶を地面にばら撒く。

 どこに持っていたのか無数に増えていくじゃあないの。

 やつがビンに入った液体を飲み干すと、全身が赤いオーラに包まれた。


「クックック……こいつをガンギマリに飲み続ければ、おれのスピードは天井知らずよ!」


 ぴょんぴょんの速度が上がって、残像が無数のチェーンマンを作り出す。


「それでもオレたちは、勇者は負けちゃいけないんだ!」


「鬱陶しい。出ろ、ロバート」


 部屋の入口から感じる圧倒的な魔力。

 全身真っ黒な鱗で覆われた、二足歩行のドラゴンだ。


「ま、魔王!?」


「魔王の名前ロバートてお前」


「おれの鎖は魔王の運命すら縛り付ける。二号とおれの勝負は邪魔させない。勇者共の相手をさせるとしよう」


 俺と分断する気か。だが超パワーアップさせた勇者パーティーなら勝てるはず。


「二号、魔王はオレたちがやる! そっちは任せるぞ!」


「おう! そっちも負けんじゃねえぞ!」


「ロバート、始めろ」


「イエッサー」


 そして死闘の幕が上がる。


「因果の鎖よ、こいつを誘え!」


 何もない空間に伸びた鎖。

 数秒後、俺とチェーンマンは見渡す限りの大草原へと飛んだ。


「これは……鎖で別世界を引っ張ってきたのか」


「理解できるか。いいぞ、実に愉快だ」


 異次元へと鎖を伸ばし、この草原しかない世界を引っ掛けて持ってきたんだ。

 俺とこいつは宴会芸とかにあるテーブルクロス引きの食器みたいなもの。


「少しは楽しめそうだな」


 光速を超え、一撃が全宇宙崩壊クラスの拳をぶつけ合う。

 やつが使う鎖の数は兆を超え、京を超えていく。


「おれは時すらも縛る!」


 時間停止能力か。今更そんな小細工が効くか。体に力を入れてジャンプ。


「無駄だアホが!」


「ぬぐう!!」


 腹に蹴りを叩き込むも浅い。直前の行動から計算すると。


「予知能力と因果律の操作か」


「正解だ。未来も鎖さえあれば自在よ」


「アホか。中級以上の勇者や魔王はそんなん使わないんだよ」


 光速のラッシュは続く。その中で平然と会話できるくらい、こいつは強い。


「ほう、それはなぜだ?」


「勇者ってのはな、決まった未来なんて覆せて当然なんだ。魔王はそれを承知でさらに別の未来を予知する。勇者はそれを察してさらにその未来を……」


「イタチごっこというやつか」


「正解。結局普通に殴り合った方が楽だ。暗黙の了解だな」


 無駄な能力に魔力を割くなら、全力で殴ればいいだけ。小細工邪魔。


「クックック。素晴らしいぞ勇者よ。ならこれはどうだ? 全ての平行世界のおれをひとつにし、一本の鎖として拳に巻きつけた、究極のパンチ!」


 その小節から溢れた魔力だけで、宇宙が揺れる。ひび割れる。


「面白い。受けて立とう」


 これぞクライマックス。

 俺も伝説の剣コレクションから一本出し、魔力を充填。


『楽しんでいる所悪いけど、あと四十分だよ』


「早く言えや!!」


「うごあああぁぁぁ!!」


 魔法剣による光の斬撃で消し飛ばし、ついでに元の世界へと帰還。

 ちゃんと短剣出たけど……もういらんな。勇者にでもあげよう。


「一号! 無事だったか!」


「おう、そっちも終わったみたいだな」


「めっちゃ手間掛かったでヤンス」


 げっそりアンドうんざりって顔だな。やはり魔王は強かったか。


「そんなに強かったのか?」


「ダメージ計算式が攻撃力引く防御力だった」


 なにそのクソゲー。

 とにかく三人とも無事だ。多少傷ついちゃいるが、流石は勇者だ。


「急ぎましょう。もうじき魔王城は自爆するわ」


「定番の自爆か。どうする?」


「魔王城には、緊急脱出用の列車がある」


「んじゃ急ごう」


 玉座の隠し通路から、列車のある部屋までやってきた。


「わーい! でぐちら!」


「レッシャニニゲコメー!!」


 列車の操縦室には、見知らぬ計器。操縦方法を調べないと。


「任せるでヤンス! こういうの大好きなんでヤンスよ!」


「でかした!」


 戦士が一番有能説浮上。

 だがその手が止まる。パスワードの入力で手間取っているようだ。


「わかるか?」


「パスワードは8426……いや8642……うぅ……だめでヤンス」


「二号! その光っている短剣を貸してくれ!」


 俺の持っている短剣と、勇者が持っていた三本の短剣が光る。


「勇者の名において命ずる。我らを導きたまえ!!」


 勇者一号の声に呼応するかのように、それぞれの短剣が順番に数字を照らす。


「8462だ!!」


『あと二十分だよ』


「いっけえええぇぇぇ!!」


 背後から響く爆発音と迫る炎。

 全速力でトンネルを抜け、光あふれる大地へと帰還した。


「いよっしゃあ!」


「やったでヤンス!」


「終わったな」


 全員で笑い合い健闘を称える。

 そして俺の体が光に包まれていく。


「おっと、もう帰る時間みたいだな」


「行っちまうのか?」


「ああ、もうこの世界は俺がいなくてもやっていける。なんせ、魔王を倒した勇者様がいるんだからな」


 硬い握手を交わす。握った手から力強い勇気を感じた。もう心配はない。


「ありがとう二号。お前との旅は忘れない」


「また危なくなったら助けて欲しいでヤンス」


「元気でね」


「ああ、みんなも元気で!」


 そして俺は世界から消える。新しい冒険譚を残して。


「ただいま!」


 現実世界のプリムの家。

 晩飯のできた食卓にあるタイマーを止めるとRTA終了だ。


「おかえり。ご飯できてるよ」


「おらっしゃああぁぁ!!」


 急いでタイマーを止める。

 数字は『3:55:25』だ。つまり。


「おおおおぉぉぉおっしゃあ!! 間に合ったああぁぁぁ!!」


 ギリッギリだが間に合った。これで夢の五百万ゲットである。


「さーて完走した感想だが……」


「まだタイマー止めるには早かったね」


「なんだと?」


「あの世界の映像を見せてあげるよ」


 家の大型モニターに映し出されたのは、勇者三人組と、なんか大きな穴。


『まさか、裏の世界にも魔王がいたなんて……』


「………………はあ?」


「実は魔王はもうひとりいました」


「はああぁぁぁ!?」


「はい五百万は無し」


「いやいやいや、裏のってことは別世界だろ! 俺が行った世界は救ったんだから五百万でいいじゃん!!」


「世界に真の平和が訪れていないからアウトだね」


「モオオオオオオォォォォン!!」


「次はこんなことがないように、チャートにちゃーんと書いておこうね」


 俺は絶対に諦めんぞ。

 それにまあ……もう一度あいつらと旅するのも、そう悪くないかもな。


 完。

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異世界救済RTA放課後ルート3:55:25(参考記録) 白銀天城 @riyoudekimasenngaoosugiru

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