エピローグ
「ねぇ、どうしてそこまであなたは、あの秘密結社にこだわるの?」
エレンが尋ねてきた。窓から景色を見ていた僕は眠い目をこすりながら、それに答える。
「それは、僕が多重人格者だからだよ」
「仲間意識ってわけ?」
「そうだね。僕だって、孤独は嫌だから」
「でも、あなたは、他の人とは違うじゃない。殺し屋としてこの上なく成功してる」
「同じだよ。僕もはじめは、ただ結社の会長から、戦力として雇われただけだったんだ。『報酬を支払うから、うちの会員の身を守ってやってくれ』って。でも、そのうち、本当に居心地がよくなっていってね。こんなことは今までなかったんだ。どこにいったって、僕らはずっと孤独だったから」
エレンは片手で煙草を取り出すと、火を点け、吸った。僕は無言で窓を開けた。
「でも、あなたはやっぱり他とは違うわよ。だって大抵は、いきなり別の人格に変わったり、手を付けられないほど凶暴な人格を持ってたりするんでしょ? でもあなたは比較的安定してる。ちゃんとコントロールできてる」
「昔はコントロールも何もなかったんだよ」
僕は笑った。端から見たら、自分はそんな平和な人間に見えるのか、とおかしくなった。
「僕はね、数年かけて、やっとのことで他の人格と協定を結んだんだ。誰がいつこの身体を使うかについてとか、やっていいこととだめなことや、我慢した見返りはどうするかとか。本当に骨が折れたよ。他人の信頼を勝ち取るのは本当に難しい。でも、最終的に納得してもらえたからよかったよ」
「ユウの話を聞いてると、あなたたちがたまに羨ましくなるわ」
エレンが呆れたように煙を吐いた。
「賑やかで、楽しそう」
「そうだねぇ。君も、自分と全く同じ外見の人間と永遠にルームシェアしてみたら? 僕の気持ちがわかるよ」
エレンは小さく笑ったが、ふとルームミラーを見て、「あら」と呟いた。
「後ろの、寝てるわね」
「寝てる?」
言われてルームミラーを見ると、後ろの席で、リアが眠っていた。頬には涙が伝っていて、手には何か光るものが握られている。寝息は聞こえるので、死んではいない。
「そういえば、注射器と鎮静剤、ありがとうね」
「ああ、あれ。あれくらいならいつでも用意できるわよ」
「そう」
疲れが限界に達して、僕は背もたれにもたれて、外を見た。車は街の近くまで来ていたものの、明け方で人はほとんどいない。静かな風景に、瞼がだんだん重たくなる。うつらうつらとしていると、誰もいない道を歩いていく子供とすれ違った。姉と弟らしきその二人は、暖かそうなコートとマフラーに身を包み、幸せそうに笑いあっていた。けれどちゃんと顔を見る間もなく、彼らは視界から消え去ってしまった。
3.団欒、焔、チェーンソウ 名取 @sweepblack3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます