江戸川乱歩と田山花袋の濃厚なエキスを凝縮したような怪異譚。短い物語の中に、男の歪んだ情念と、対する女たちの恐ろしい憎悪が刻印されている。ひどく残酷な物語でありながらも、どこか美しい物語であるように感じられるのは、「枝垂桜」というモチーフもまたしっかりと描写されているからだろう。おとなのための、完成度の高いむかしばなしである。
女性への憧れは人外へ。人道の壁とは、高いつもりで一度乗り越えかたを覚えてしまえば簡単です。六郎太は女の生首を愛で、小心者から欲深い男となった。本文中でもあったように、その後の展開はまさしく面妖で、それこそ鬼の仕業なのでしょう。六郎太に殺され、谷にすてられた女たちの。
途中まではあまりにも悪の描写が生々しく、生理的嫌悪感に近い気持ちで読み進めましたが、ラストへ向かうシーンからは御伽草子の絵巻物のような、まさしく因果応報の喝采でございました。勝手に頭のなかが美青年モードですが、こういうのを見るにやはり昔の日本人も俺tueeeeなチートが好きだったんだな、と俗っぽい感想になりました。
日本の古い伝承を基にした好短編です。芥川龍之介の「羅生門」や「藪の中」に通じる雰囲気があります。ただし、本編では男主人公が罪を犯すことそのものへの快楽に取り付かれていく展開に強い独自性が感じられます。男主人公を罪に誘い込む女性たちの妖しさ艶かしさが尾を引く読後感があります。