第5話夢の中の男の子

私は毎晩夢を見る。

そんなこと当たり前だと思われるだろうが、私が見るのはいつも同じ夢なのだ。




中学生くらいの男の子が、花畑の真ん中で微笑んで立っている。

儚げな印象のその子は、私が来るといつも嬉しそうに「待ってましたよ」と声をかけてくる。

男の子に近づくと、彼は花畑に座り込み、


「さあ、今日は何の話をしましょうか」


と語り始める。

私も彼の隣に座って、それに黙って耳を傾ける。


「今日はある仲良しな姉弟の話でもしましょうか」


彼はいつもこうやって話を始める。


昨日は出会って数日で死に別れてしまう恋人の話だった。一昨日は敵対する隣国の姫と王子の壮絶な殺し合いだった。その前は平凡な日常を幸福に暮らす老婆と一匹の年老いた猫の話をだった。


彼はいつも沢山の話を、懐かしむような目で語る。

私は初めて聞くはずのそれを、何故か大事な思い出を語り合うかのような不思議な気持ちで聞く。


そして、目が覚めると全て忘れる。


彼は誰なのか。彼の話す物語は何なのか。

疑問に思うことはあるが、そんな野暮な質問はこの神聖な空気を壊してしまうようで、躊躇われる。


ただ、彼の私を見詰める視線は春の陽だまりのように優しくて、私は彼と会う度に安心する。


「そして、弟は姉の死を見とったあと、2人の家で静かに暮らしましたとさ。終わり」


彼は私を見て、優しく微笑した。


「さ、今日はもうおしまいです。朝ですよ、ーーー」


彼が私の名前を呼んだ。

目の前が眩しく光る。


「また明日ね」


そして、私は目覚める。

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14歳以下の男の子とこんな人生が送りたかったっていう妄想 ベルサ @Belusa

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