異世界取締役:島=コサック

ちびまるフォイ

異世界に経営を持ち込む不届き者

「おめでとうございます。

 あなたはこれから異世界に転生しますよ。

 さぁ、チートを持つなり美女をはべらすなり……」


「なるほど。では、経営権がほしいな」

「えっ」


「私は生前、一大食品メーカーの代表取締役兼

 ハイパーメディアクリエイター兼ユーチューバーの島という」


女神はすぐに正座して座り直した。


「困難でない道に成長はない。チートなど不要。

 美女? そんなものはすでに飽きるほど見ている。

 私が欲しいのは新天地での挑戦だ」


「(呼ぶ相手間違えたかな……)」


「では転生させてもらう」

「あちょっと勝手に!」


男は異世界に降りるや、まずは街をぐるりと見て回った。


「ふむ、なるほど。この世界では冒険者ギルドがあるのか。

 このビジネスはやったことがないな、試してみよう」


男はさっそく冒険者ギルドを作った。

とはいえ、新参の異人のギルドにクエストなんて依頼はない。


そこで男は、日常のごく小さな手伝いなどをクエスト化して受注させた。


「家の草むしり? こんなのがクエストなのか?」

「これなら、防具も傷つかないし、いいかも」

「仲間と都合が合わなかったんだよね!」


モンスターと戦う以外の日常クエストを充実させたギルドは

またたく間に話題となり女性を中心とした冒険者にヒットした。


従業員も増えたところで、男はすでに先を見ていた。


「よし、支店を出そう」


「本気ですか!? ギルド支店なんて聞いたことがない!」


「だからこそだ。ココで有名になったギルドの名前が

 他の土地でも見かけられればブランド力が強まるだろう」


「な、なるほど……!」


すでに男のギルドはこの土地で有名になり

討伐から運搬ひいてはおばあちゃんの荷物持ちまで依頼が殺到する人気ギルド。

支店を開店するのに反対した人はいなかった。


「社長! 大変です!」


「なんだ? なにかあったのか?」


男はいつしか尊敬を込めて社長と呼ばれるようになっていた。


「実は……支店から冒険者登録が次々に離れていってます!」


「なん……だと……!?」


ギルドの名前は大陸全土に知られているのに、

どうして支店になった途端に人気が落ちてしまうのか。


「……従業員の質が悪いとかか?」


「いえ、そんなことはないです。

 本部の人員を支店にも割いていますし

 社長の言うようにマニュアル化、および研修を徹底しています」


「売り子は?」


「問題ありません。社長の意向に従い、

 店舗ごとにご当地ギルドアイドルを配置しています。

 女の子目当てで屈強な冒険者が集まるはずなんですが……」


「ギルド飯もけして手抜かりはないはずだ……なぜ……」


男は上着を取った。


「社長! どちらへ!?」


「現場を視察してくる。後は任せるぞ」


男はギルドの支店をお忍びで確認することにした。

ギルド本店と同じクォリティにもかかわらず、支店は過疎っていた。


「君、このギルドに登録している冒険者かね?」


「ああ、そうだが。でも、もう登録やめようかなと思ってるだ」


「そうはなぜ? 待遇が悪いとか?」


「ちがうちがう。オレっちに合うクエストがないだよ」

「合うクエスト……? そうか! そういうことか!」


男は他のギルドも視察して自分の仮説を確かめた。

確信にいたるとその日のうちにギルドを開拓した。


「社長~~! 社長~~!!」


「おお、秘書くん。どうしてここに」


「社長がいないから仕事が回らないんですよぉ。

 それに支店は点T年ってなんですかこの賑わいは!?」


昨日まで飲んだくれの酒場のようなギルドが

今ではすっかり人の活気に満ちていた。


「支店が不人気だった原因は土地にあったんだ。

 ドワーフが多い街で討伐クエストの受注者は少ない。

 本店と同じクエストを依頼していたのがまずかったんだ」


「社長、これで安泰ですね」


「いいや、まだまだ。どんどん支店を増やしていこう。

 現状で満足してしまうのは、退化と同じなんだよ、秘書くん」


「休まず働けってことですかぁ~~!?」


男はますますギルドの支店を拡張すると、

各地の評判でますます人気となり、冒険者ギルドのドンとなった。


男の提案した「近場のクエストまとめて受注システム」で、

いちいちギルドを行ったり来たりせずに、クエストをまとめてクリアできるようになり

冒険者たちはますます登録者がふえ、街には活気が増えていった。


けれど、それでも長くは続かなかった。


「社長! 社長大変です!!」


「秘書くん、どうしたんだいそんなに慌てて」


「ギルドの売上がまた落ちているんです!」

「どのギルドかね?」


「全部です! なぜか全部のギルドの売上が落ちています!」


「ライバル店は?」

「ありません」


「変化は急激だったのかね」

「いえ、ここ最近からじわじわと……です」


「なるほど、そういうことか」


「原因がわかったんですか?」

「ああ、秘書くん。君も来てくれたまえ」


 ・

 ・

 ・


魔王の玉座の前にあっさり到着した男はビジネスの話を続けた。


「冒険者たちの効率化によるモンスター数の激減に対し、

 私はモンスター専用のギルドを作りました。


 ここに登録すれば、これまでのように準備万端の勇者を

 ずっと待ち構えるのではなく、先に勇者の芽をつむことができますよ」


「ああ、登録する! 実は最近冒険者増えまくって困っていたんだ!

 どこに冒険者が出てくるのかわかれば魔王軍も派遣しやすい!」


魔王はふたつ返事でギルド名簿にサインをした。

その様子を秘書は青い顔で眺めていた。



「これどっちが魔王なんだろ……」

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