第5話 炎帝の闘いですよ!ドラゴンさん

「うおッ!?」


 少女の斬撃は空を切る。空気の斬れる音が耳元を掠め、避けなければ危うく首が飛ぶところだった。


 普通の魔法使いなら詠唱が必要で、少女の攻撃の速度ならば、詠唱をさせないことが可能だろう。だが生憎、俺は例外なんだ。


「0312、エアハンマー!」


 攻撃を避けつつ叫ばれた数字と魔法名。これこそ、『大図書館(ハンズ・オブ・ビブリオ)』の真骨頂。番号により振り分けられた魔法を呼び出し、本の魔力で補助して発動できる。詠唱の必要が無いし、魔力消費も少ないのだが、万能では無いんだよな...


 本から放出された魔力が、現実を改変する。空気が圧縮され、大きな金槌へと形を変える。目には見えないが、実際に金槌で殴られた程度には攻撃力がある。そして、ローブの少女の少し手前に振り下ろす。


「...ッ!見えない...」


 地面に叩きつけられた空気が、砂埃を巻き上げた。少女に直接当たる訳がないから、わざと地面に打ったのだ。主に時間稼ぎとして。


「0506、ヒーリング!」


 専門の職でなければ、大した効果がない回復魔法。しかし、この本なら別だ。大量の魔力を消費するが、無理矢理発動する。魔力の急激な消費で、ズッシリとした疲労感が襲うが、もう勝負はついたも同然なんだ。構うものか。


 そこまでして誰を回復するのかって?勿論、『炎帝』エリカ・テティスだ。魔力がエリカに纏わり、傷を癒す。そして砂埃の中、エリカの確かな魔力の流れを感じる。最年少で『四帝』に選ばれ、炎系統魔法において最高峰と謳われる者の、桁違いの魔力。


「我が魂、我が炎。炎帝エリカ・テティスの名の下に、顕れよ『業焔の魂(フランメ・ファウスト)』!」


 砂埃を吹き飛ばす熱風。炎は地面を履い、その中心の火柱が爆発する。火の粉が空を覆い、闇夜を照らし尽くす、神秘的光景。火柱から出てきたエリカの両拳は燃え盛り、炎に包まれている。あれだけの炎が上がったにも関わらず、周囲には一切燃え広がっていないという、不思議な炎を纏う。


「...これが炎帝」


 フードで隠れた顔は見えない。だが、少女は明らかに見惚れてしまっていた。一瞬の隙が生じたのを、エリカは見逃さない。



「くぅぅらえぇぇぇ!!!」


 闘志と、炎の篭った右ストレート。明らかに遠い距離。拳など届くはずがない。だが、繰り出した右腕が伸びきった瞬間、拳の炎が火山が如く爆発する。


 少女は、ローブで炎は防いだものの衝撃は吸収できず、投げ捨てられた人形のように転がって、数m後方の壁に激突する。


「あ、やばッ!死んでないよね?!」


「すごい吹き飛び方だったぞ?!抑えたんだよな?!」


「...ぅぅ」


 少女は受け身の取り方が良かったのか、それとも当たりどころが良かったのか。青いショートカットの頭から血を流しつつも、生きていた。燃え尽きたローブの下は、魔法学院初等部の制服か?ティアナと同じくらいの年頃だからか、ちょっと罪悪感を感じてしまう。


「とりあえず捕まえておくか」


 ロープで縛ったんだが、なんかこう...巻きすぎ?


「ああああんた...!ハルトの変態!スケベ!」


 やってから思った。エロい...とてもエロい。まだ発展途上の胸元や太腿等、強調される縛り方をしてしまった...我ながら才能があるかもしれない。流石に可哀想なので、普通に逃げれないくらいにやり直した。


 エリカとあれこれ言い合いしていると、背後で凄まじい魔力が2つ。1つはカトルだ。いかにもドラゴンらしい魔力。もう1つの魔力は一体誰だ?そういえば、ドラゴン探してるって言ってたのはこれか?


「エリカ、戻るぞ!」


「言われなくてもわかってる!」


 少女を担いで、再び家の中へ。今日だけで色々有り過ぎだ!クタクタの体に鞭を打って、駆ける。

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本から出て来たドラゴンさん! 藤宮なるる @ghost920

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