第4話 ライバル登場?!ドラゴンさん

「中々だったぞ。褒めてやろう」


「はいはい。お粗末様でした」


 常に態度がでかいカトルに、段々と慣れて来た。受け流すのが、精神衛生面で一番いい。


「そういやカトルはこれからどうすんだ?」


 皿を洗う手は止めず、顔は手元を見ながら、少し横目に問いかける。


「我はな、あるドラゴンを探しているのだ」


 コンコン。ノックの音が聞こえる。こんな時間に誰だ?


「私が出るわ」


 手が空いていたエリカが、玄関に向かう。トタトタと小さい足音が遠くなる。


「あれ?誰もいない?」


 玄関から少し出た時、ドアの背後から小さい人影が...


 玄関側からの異音。まるで洗練された金属が、激しくぶつかる様な音が聞こえる。


「なんだこの音?エリカ〜?どうかしたのか?」


 返事が無い。


「エリカ?お〜い...」


 返事が無い。金属音はまだ続く。不均等なリズムを刻み、時折激しく。時折長く。そして気づく。


「おいおい!つば競合いの音じゃないか?!」


「ティアナはここに居ろ!いいな!」


 返事を待たずして急いで玄関へ。普段は走らない廊下を駆ける。


「ハルト!来ちゃダメ!」


 エリカの制止に、思わず足が止まる。玄関を少し出た辺りで、エリカと、少女と思われる、フード付きローブを羽織った小さな人影が、短剣をぶつけ合っていた。お互い一歩も譲らない激戦。ローブの袖から生えている短剣の、見えない程速い斬撃がエリカを襲い、エリカがそれを自衛用の短剣で防ぐ。動きはランダムだが、攻守は固定されている。エリカは何故か、防戦一方だ。


 剣と剣が火花を散らす。お互いの重い一撃がぶつかり合ったところで、エリカが後方へ大きくステップを踏み、俺のすぐ側まで後退した。相手も暫し間を取る。


「『炎帝』...しぶとい...」


「『炎帝』って呼ばれるのは久し振りよ。アンタ何者...?」


「教えない...」


 息の荒いエリカ。対して相手は平然としている。その原因は、エリカの左脇腹から滴る赤い血。結構な量の出血をしている。


「ハルトは逃げて...!」


「何でだよ!お前怪我してるじゃん!」


「アンタじゃ...勝てないわよ!」


 そう言われて、言葉に詰まる。だけど、息も絶え絶えのエリカを見て、逃げる気にはなれない。


 エリカで勝てないなら、勝てないかもしれない。だがここで逃げたら、俺は一生後悔する。そう思ったから。


「出でよ!『大図書館ハンズ・オブ・ビブリオ』!」


 手のひらに現れた魔法陣から、煌びやかな光と共に、分厚い本が登場する。装飾も無く、古びた本は、見た目とは裏腹に強烈な魔力を感じさせる。ビブリオテーク家と共に生きてきたこの本は、俺の切り札であり、唯一の攻撃手段。|


「さあ来い!」


 震える手を抑え、精一杯の威勢。


「ビブリオテーク...兄なら楽...」


 低い姿勢を作るローブの少女。刹那、少女は俺の懐に飛び込む。


「ハルト!」


 エリカの叫びが、闇夜に木霊する。


 一方、リビングではもう一つの戦いが起きようとしていた。


「来たか...『ファフニール』」


「人間の姿でいるとは、驚きだよ『ヘブンズロード』。しかも奴の姿とはね...ならば俺も『人』になろう」


 空中を浮遊していた小さなドラゴンは、墨のように溶け出す。黒い闇は形を変え、人型を形成する。段々と形が整い、その姿はシルクハットを被り、片眼鏡を掛けた黒髪の男となった。口元が引き攣って常に笑っている男は、手に現れた杖を床にトントンと打ち付ける。


「準備はOKか?ヘブンズロード。今度こそ殺してやる」


「我が貴様如き雑魚に負ける?冗談だろう?」


「前回死にかけた癖に...」


「それは貴様だ...ファフニール」


 正に一触即発。いつ闘いが始まってもおかしくない。


「はわわわわわ...」


 動こうに動けないティアナは、机の下でうずくまって独り言を呟く。恐怖からか?いや、誰かと喋っている?


 お互いの魔力が高まり、周囲に余剰魔力が溢れ出る。蛍が如く発光する魔力。白と黒の魔力が、ぶつかり合う。


 だが、ファフニールは忘れていた。ヘブンズロードを倒す事しか頭に無かった。そう、ここには自分とヘブンズロードを封印した『シェルム』の子孫が、2人いるという事を...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る