第3話 お着替えドラゴンさん
「もっと我に相応しい服は無かったのか?」
悪態を吐く、元ドラゴンの少女。主に胸元がパツパツの衣服は、エリカが貸し出したものだ。
「特に胸の辺りがきつい」
エリカ、絶望。あまりの胸囲の差に、服が悲鳴をあげる。エリカは遠い目をしてるが大丈夫か?
「あ、そういえば、お婆ちゃんの昔きてた服があったはず」
取ってくる!と、一声掛けて、自室のさらに奥、使われていない部屋に入る。鍵はかかっておらず、ドアや床はギシギシと軋む。
「お、これなんか良さそう」
適当にクローゼットから引っ張り出した服は、魔法学校の制服だ。やけに短いスカートと、白を基調としたデザイン。魔法学校でも、上位の成績を持つ者が入れる『白組』の制服だ。まあ、お婆ちゃんなら当然か。
「取ってきたぞー!」
「遅いぞ!我を待たせる...おや?」
ドラゴンの少女は見覚えがあるらしく、しばらく悩んでから口を開く。
「それはもしかして『シェルム』のものか?」
シェルムは、お婆ちゃんの名前だ。『シェルム・フォン・ビブリオテーク』。俺の祖母であり、伝説の魔法使いの1人。
「お婆ちゃんのこと知ってるのか?」
「シェルムは我を封印した張本人だぞ?忘れるものか」
「あ、そういやそうだな」
おもむろに着替え始める美少女。俺は咄嗟に背を向ける。エリカの手がそこまで来てた...怖い。
しばらくして「良いぞ」という声が聞こえたので振り向くと、それはそれはよく似合っている。というか、自分の服かというくらいピッタシだ。
「似合ってるな」
「我に似合わぬ服などないわ!」
「おっと、そろそろ晩御飯だ」
「我を無視するでない!」
さて、晩御飯を作って、本の整理の続きをしなければ。
「ごっはん!ごっはん!」
「まってろよぉ。腕によりをかけて作りますよ!」
妹のご飯コールに押され、エリカも手伝いに入って準備を進める。
「どれ?我も少し...」
「誰が食べていいって言った?」
「いいじゃん!おなか空いたもん!」
子供か!だが、ティアナと共にご飯コールをしだしたので仕方なくこいつの分も作ることにした。
「あ、そういえばなんて呼べばいいんだ?」
「ヘブンズロードでよいではないか」
「やだよ長いし。他の人がいるとこで呼べないし」
「グヌヌ...」
ヘブンズロードは暫し考え、渋々答えを出した。
「『カトル』と呼べ...」
「じゃあ、今日からお前はカトルだな!」
「呼び捨てにするな!」
食卓が笑顔に包まれている頃、そんなやり取りを覗き見。いや、監視している、全身真っ黒のフード付きローブに身を纏った少女。鏡の中に移されているのは、ハルト、エリカ、ティアナ、そしてヘブンズロード。
「破滅の龍...復活した...」
表情の動かぬ少女。小さく呟く声を聞いていたのはたった1人?1匹?肩に乗る小さなドラゴンだ。黒く、暗黒のような色をしたドラゴンは、肉のカケラを啄ばんでいる。
「ああ、あいつを早く始末してしまおう。そうだろう?ミリア」
ミリアと呼ばれた少女は、小さく頷く。そして大きな杖を持ち、ドラゴンと一緒に暗い部屋から出て行った。ドアが閉められ、部屋は再び真っ暗になる。
破滅の竜は倒すべき存在。ハルト・フォン・ビブリオテークは、それを匿う悪い奴。誰にも聞こえない声で呟く。
「そうだ。一緒に倒そう。悪い奴らを倒そう」
ドラゴンはまじないのように繰り返す。奴を倒せ。奴を滅ぼせ。奴こそ破滅の竜だ。
「待っていろ、ヘブンズロード...この『ファフニール』が殺してやる...」
ドラゴンの殺意がこもった言葉は、通行人が聞こえずとも、本能で彼女らを避けるほどだ。そして少女とドラゴンは、街の細道に消えた。
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